相続人が「配偶者と子」の場合…遺言書のポイント7つ
(1)相続人が「配偶者と子」の場合
⇒公正証書遺言(※遺留分に配慮)+「配偶者居住権」の活用
最も一般的な類型である相続人が「配偶者と子」の場合の対策は、公正証書遺言+「配偶者居住権」の活用です。
相続人が「配偶者と子」のパターンの場合、相続法の改正で今年(2020年)の4月1日から施行された「配偶者居住権」の制度を活用することも検討に値します。
具体的な遺言の内容は遺産の内容によっても異なりますが、以下の点に注意することがポイントです。
<遺言の内容の具体的なポイント>
①「全ての」や「一切の」という文言はなるべく使わない
財産については、「全ての預貯金」や「一切の有価証券」という包括的な書き方ではなく、各相続人に財産の内容がわかるように、できる限り具体的な内容を特定して網羅的に記載することが重要です。というのは、具体的に記載しないと他の相続人が疑心暗鬼になり、自分の遺留分が侵害されているのではないかと考えて紛争の火種になるからです。
②遺留分に配慮する
遺留分を侵害しないように注意することはもちろんです。配偶者と子の取り分を法定相続割合とは違う割合に変えることも自由ですが、その場合でも「遺留分」に配慮し「遺留分」を侵害しない内容にすることが重要です。せっかく遺言を作成しても、遺留分を侵害しているために遺留分をめぐって争いになることは多々あります。
③「割合的」な遺言にしない
たとえば「妻Aに財産のX分のXを相続させる。子Bに財産のX分のXを相続させる」といった「割合的」な遺言をたまに見かけることがありますが、このような「割合的」な遺言は避けるべきです。というのは、このような遺言にすると、結局は相続人間で遺産分割協議をしなければならなくなるため、せっかく遺言を作成した意味がほとんどないからです。
遺言を作成する場合は、必ずどの財産を誰に相続させるのかを具体的に特定する「特定財産承継遺言」にするべきです。
④「祭祀主宰者」についても言及しておく
お墓の管理を誰がするのかなどをめぐって争いになることもあるため「祭祀主宰者」についても言及しておくほうがよいでしょう。
⑤貸金庫がある場合は貸金庫についても言及しておく
金融機関と貸金庫の契約をしている場合には、必ず中身をきちんと整理しておき、遺言でも貸金庫の中身に触れておくことが必要でしょう。
⑥「付言事項」の活用
遺留分は侵害しないまでも、遺言により他の相続人よりも取り分が少なくなる相続人が不満を持つことは否定できません。
そこで、他の相続人の取り分を多くする理由を「付言事項」として記載しておくと、紛争の予防につながります。
たとえば、生前に自分の身の回りの世話や介護をしてくれた相続人に報いようとする場合に、そのことが理由でその相続人の取り分を多くしたということを付言事項に記載しておくのです。そうすれば他の相続人は、自分の取り分が少なくなったとしてもその理由がわかるので、不満をもつおそれが低くなると考えられます。
⑦遺言執行者を指定する
遺言書を作成する場合には、遺言の内容を円滑に実現するために遺言執行者を指定することが重要です。
遺言執行者には相続人を指定することもできますが、取り分の多い相続人を遺言執行者に指定すると、取り分の少ない相続人から不満を持たれるおそれもありますので、遺言執行者には弁護士等の第三者たる専門家を指定し、遺言書の謄本(写し)を預けておくことをお勧めします。
公正証書遺言を作成して遺言書の写しを遺言執行者に預けておけば、ご自身がお亡くなりになったあとに遺言執行者が粛々と遺言の内容を実現するため、骨肉の争いは起きようがないのです。
生命保険の活用で「遺留分をめぐる争い」を回避
<その他のポイント(生命保険を有効に活用する)>
遺産が自宅不動産のみ、あるいは自宅不動産とわずかな預貯金のみという場合は特に要注意です。遺言で自宅不動産を特定の相続人に相続させると、遺留分を有する相続人がいるときは遺留分に対する手当がなく、遺留分をめぐって紛争になるおそれがあります。
そこで生命保険を活用し、自宅不動産を相続させる者を生命保険金の受取人に指定しておきます。そうすることで、自宅不動産を相続した相続人は、受け取った生命保険金を他の相続人の遺留分侵害額の支払いにあてることができます。
ここで「そもそも、遺留分が侵害される相続人を生命保険金の受取人にしておけばいいのでは?」と疑問に思われた方もいるかと思います。
しかし注意が必要なのは、生命保険金の受取人を自宅不動産を相続しない相続人に指定するとどうなるかというと、生命保険金は「相続財産」ではなく受取人の固有の権利であるため、生命保険金を受け取った相続人は自宅不動産を相続した者に対してさらに遺留分の請求をすることが可能であり、紛争の予防にならないのです。
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