「母に一目でも」妹が面会希望…なぜか断固拒否する兄
依頼者は50代の女性でした。高齢の母は兄の自宅で兄夫婦と同居しており、終末期のガンで自宅療養中だが、兄が母を囲い込んで会わせてくれない、余命幾ばくもない母と何とか面会して話がしたいとのことでした。
また、母親が兄夫婦と同居している自宅の土地建物は母親が所有していたのですが、依頼者が母親と会えなくなる直前に、母親から兄に生前贈与されていることが判明したのです。
そこで、この女性からの依頼を受けて裁判所に対し、兄と兄嫁を相手方として「面会妨害禁止の仮処分」の申立てをすることにしました。
生前贈与がある兄…囲い込みの目的は「遺言書」?
実はこの申立てをする前に、依頼者が母親に会うために近所にある兄の自宅を訪問した際、兄が警察を呼ぶ騒ぎになったり、兄から「面談強要禁止の仮処分」の申立てをされるなど、感情的な対立はかなり激しいものがありました。
そしてこの申立ての審理では、兄から非常に長文の陳述書が繰り返し提出されるなどして兄はなぜか、依頼者が母親と面会することを頑なに拒み続けました。
前述のとおり、母親が所有する自宅の土地建物が兄に生前贈与されていたため、兄が母親との面会を頑なに拒否する理由はそのことにあるのではないかと依頼者は疑っていました。また、おそらく兄は母親に、自分に有利な遺言書を書かせているのではないかと疑心暗鬼になってしまっていました。
こうした激しい感情的な対立から、裁判所における審尋期日でも、依頼者と兄が激しい言い争いになるなど、対立はエスカレートするばかりでした。
弁護士と裁判官により、渋々「15分間の面会」実現
こうした状況の中、裁判官から、時間を区切って双方の代理人弁護士も立ち会うなど、様々な条件をつけるなどしたうえで、依頼者の自宅で「試行面会」(文字どおり、試みに面会をすることです)をしてみてはどうかとの提案がありました。当初兄は、試行面会ですら頑なに拒否していましたが、当方からの粘り強い主張と裁判官からのとりなしもあり、ようやく兄も渋々ながら面会に同意しました。
こうして、試行面会は二度にわたり行われ、私も二回とも同席しました。二度の試行面会の様子は録音・録画され、いずれも15分程度の短時間でしたが、特に問題なく実施されました。
裁判所は「前例踏襲主義」…結果「和解」で解決
この案件の前に、同じような「囲い込み」の事案で横浜地裁が面会妨害禁止の仮処分命令を出していたため、私は、裁判所に対し、この裁判例を引き合いに出して仮処分命令を出してもらうよう主張しました。
裁判官は基本的には前例踏襲主義なのですが、本件の担当裁判官も、やはり、この横浜地裁の件以外に前例がないこともあり、仮処分命令を出すことには慎重な姿勢でした。
そこで私は依頼者と協議し、こちらから相手方に対し、和解案を提案することにしました。すると相手方は、和解に応じる場合の条件を提示してきました。それは、依頼者が母親と面会する際の条件として、約30項目にも及ぶ禁止事項の提示でした。これらの条件を受け入れなければ和解には応じられないという相変わらずの強硬姿勢でした。
私は重箱の隅をつつくような微に入り細を穿つ内容に辟易しながらも、依頼者が母親と面会するためという一念で気を取り直し、面会時の禁止事項を大幅に簡略化して整理し、相手方と何度も調整しました。
その結果、ようやく一定の条件のもとで、依頼者が母親と面会をすることを認める内容の和解の成立に漕ぎ着けることができました。