コロナ禍により急速に普及した「オンライン講義」。感染リスクを抑え、かつ所在地に関わらず教育を受けられることから、学生にとっては優れた学習環境になったと思われる。しかし、実は「意外な要素」が教育格差を生むと判明し…。東欧の医学部に在籍する筆者が実体験を語る。※「医師×お金」の総特集。GGO For Doctorはコチラ

欧州の医学部は「実践的な授業が多いこと」が魅力

私は現在、スロバキアの首都ブラチスラバに位置する、コメニウス大学医学部に在籍しています。同大学の前身となったのはロイヤル・エリザベス大学。ハプスブルク帝国支配下であった1912年に創立された学校です。ちなみに医学部が設置されたのは1918年、現在のコメニウス大学へと改称されたのは1919年、ハプスブルク帝国の崩壊後のことです。

 

現在はスロバキア語コースと英語コースに分かれて授業を行っています。英語コースには近隣国のドイツ、ポーランドやオーストリアを中心に世界中から約850人の学生が集まり、英語で医学を学んでいます。

 

スロバキアを始めとする欧州の大学医学部の魅力の一つは、低学年のうちから実践的な授業を受けられることです。病院で患者さんの問診を行い、採血や縫合などの手技を練習できるのです。

 

一方、日本の医学部の場合、1〜3年生のうちは座学を通して医学の基礎知識を学び、4、5年生で臨床実習を受け、6年生の大半は卒業試験・国家試験対策を行うというのが主なカリキュラムです。

「実習」に対応しきれない…オンライン授業の限界

通常、欧州では3年生から病院実習を始め、卒業するまでのほとんどの授業を臨床実習に充てることになります。しかしスロバキアでは新型コロナ感染拡大に伴い、3月16日と10月1日の2回にわたり緊急事態宣言を発令。2020年2月から11月現在に至るまで、病院での実習も含めて、対面授業の多くが中止となりました。結果として、コメニウス大学の教育体制も、従来の実践的な授業スタイルからオンライン教育体制へと変化しています。

 

同大学における教育体制の変化は、次のような流れで起こりました。まず3月26日に、3月16日にスロバキア政府より発令された緊急事態宣言を受け、夏学期(通常7月まで)のすべての試験および授業をオンラインで実施する方針を発表しました。

 

通常、実習は毎朝7時半から13時にかけて行われます。しかし臨時のオンライン授業では多くて週3回、しかも1回につき2時間程度の講座が限界でした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

医師免許を取得するには、日本の場合、決まった日時に全国で一斉開催される統一試験を受けて合格しなくてはなりません。しかし欧州の場合は、最終学年である6年次に、1)内科・外科・小児科・産婦人科における規定時間以上の実習、2)上記4科目における口頭試問の合格、3)卒業論文の提出、これら3つをクリアすることが条件です。

 

さらに言うと、1)の臨床実習は各科ごとに細かい時間規定が設けられています。たとえば、内科は396時間の実習と5日間の当直、外科は240時間と2日以上の当直、小児科は280時間、産婦人科は54時間という具合です。

 

実習先は原則スロバキア内の大学病院で受けることとされ、教授の許可がある場合のみスロバキア外での実習が認められていました。

 

ところが今年9月、新学期が始まると「英語コースの学生は、自国で実習受け入れ先の病院を積極的に見つけるように」と大学より連絡がありました。受け入れ先がない学生は、スロバキアの大学病院で可能な限り病院実習を行うこととなりました。

 

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