「親が認知症で要介護」という境遇の人は今後、確実に増加していくでしょう。そして、介護には大変、悲惨、重労働といった側面があることも事実です。しかし、介護は決して辛いだけのものではなく、自分の捉え方次第で面白くもできるという。「見つめて」「ひらめき」「楽しむ」介護の実践記録をお届けします。本連載は黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)から一部を抜粋、編集した原稿です。

「家を売った」の記憶が再燃して大騒ぎの末

不発! ニセ営業マン作戦

 

認知星人のスイッチが入ると、じーじは私に数々の難題を突き付ける。私にとっては困りごとの一つだが、認知星人にとってはいたって真面目な問題なのである。

 

黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)
黒川玲子著『認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌』(海竜社)

以前、固定資産税が3千万円になったとか、家を乗っ取られるからというわけのわからん(私にとっては)理由で家を売ったぞ事件があったが、最近は言わなくなっていたので安心していたが! また、「家を売った」の記憶が再燃したから大騒ぎ(実際は売ってない)。

 

「そういえば、家を売ったA建設から何か連絡はあったか?」
「ないよ」
「A建設に電話しろ」

 

しかたがないので、いつもの電話をかけるふりをしてみて、担当者が不在で今日はわからないと言ってみたものの、今回はどうにもこうにも治まらない。おまけに、パジャマの上から上着を着て「俺が直談判をしに行く」と言い出す始末。

 

もうどうにもならないので、奥の手の安定剤替わりのビールを献上しこの場は治めたものの、明日の朝が怖い!

 

案の定、翌朝起きてくるなり「今日A建設に電話しておけ」の一言。短期記憶が失われるのが認知症の症状のはずだが、じーじは思い込んだら命がけなので、納得するまで忘れない。とにかく、毎日この騒動が繰り返されたらこちらの身が持たない。家を売ってはいないということを納得してもらわねばならない。

 

……ピカッとひらめいた!

 

じーじは、外ヅラ良夫君なので、家族以外の言うことは実によく聞く。そこで、ニセの担当者を仕立てて説明してもらおう! 不動産の知識があって、じーじが好きそうなこぎれいな営業マン。いた! Hさんだ。

 

そこでHさんに事情を説明し、ニセの名刺をパソコンで作成し準備万端。翌日「A建設の人が日曜日に説明に来てくれるって」と言ったところ、

 

「何を言ってるんだ、A建設? なんで家に来るんだ? 俺にはさっぱりわからんぞ、お前は変なこと言うなぁ」

 

ひえ~、恐るべし認知星人。せっかくニセ営業マンやニセ名刺まで仕込んだのに。ここ数日の騒ぎをすっかり忘れているのであった。まあ、忘れてくれて何よりなので、めでたし、めでたし。

 

黒川 玲子
医療福祉接遇インストラクター
東京都福祉サービス評価推進機構評価者

 

 

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認知星人じーじ「楽しむ介護」実践日誌

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黒川 玲子

海竜社

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