本記事は森田義男氏の著作『相続税を減らす不動産相続の極意』より一部を抜粋、再編集したものです。

今日の遺産分割では、皆が金融資産を希望

遺産分割に際して忘れてならないのは、不動産と金融資産では圧倒的に金融資産が好まれるという点です。理由は不動産(たとえば自宅や収益用不動産)がおいそれと換金できないからです。さらに今日では、地価の上昇は期待できません。金融資産であれば、いつでも好きな金額を使うことができます。

 

したがって、今日の遺産分割では皆が金融資産を欲しがります。その結果、不動産のほとんどを相続する一方、金融資産は納税資金と遺産分割で使い切った跡継ぎが、老親を抱えて質素極まる生活をしている、といったケースも少なくありません。

 

ここで話を大きくしましょう。相続税を支払った後での「資産10億円の本家」を継いだ兄と、税引き後で4000万円の預金のみを取得した妹がいます。ともするとこの妹は、「兄は私の25倍の資産を相続してうらやましい」などと思っているかもしれません。しかしこの場合であれば、妹のほうがずっとうらやましい状況にあるように思います。

 

皆が金融資産を欲しがる? (画像はイメージです/PIXTA)
皆が金融資産を欲しがる?
(画像はイメージです/PIXTA)

地価の上昇が期待できない土地は相続人の悩みの種に

本家を継いだ以上は、兄の相続財産は広い自宅や賃借人のいる収益用不動産といった、現実的には売るわけにはいかない不動産がほとんどでしょう。おまけに金融資産は納税などでスッカラカン。多額の家賃・地代収入があるとしても、その大半はローンの返済や固定資産税等で消えてしまいます。

 

本家としての体面や付き合いも必要ですし、やがて来るであろう自分の相続にも備えなければなりません。何と言っても、親族その他の「周りの目」があります。好き勝手な生活などおよぶべくもありません。結局は従来どおり「質素一筋」の生活を続けるしかなくなってしまいます。

 

それでも昔のように地価の上昇が期待できるのであれば、将来的な楽しみもあるというものです。しかし、地価は今後下落傾向が続くと予想されています。所有する多くの土地はむしろ悩みの種なのです。

 

一方の妹には、好き勝手に使うことができる4000万円もの大金が転がり込みました。その使い道に目を光らせるような親戚筋もありません。その気になれば相応の贅沢も可能となりましょう。まさにうらやましい限りです。

 

いずれにしても、不動産に比べての金融資産の優位性は、確固たるものがあるように思います。したがって地主層の資産構成にあっては、一部の不要不動産の売却等により、金融資産もある程度の割合で保有すべきことを強くお勧めしておきたいと思います。

中古の建物の市場価値は、驚くべきペースで下落する

不動産等の資産価値を考える際には、それがどの程度の換金性を有しているかの検討は重要性が高いと言えるでしょう。

 

通常の更地であれば、換金にはさほど苦労はしないはずです。ただし、いくらで売れるかに関して確定的なことは言えません。500万円分だけ売りたいというわけにもいきません。ついでに言えば、売却には仲介手数料といった諸経費もかかりますし、譲渡所得税の問題もあります。ただし売却自体はそう難しいわけではありません。

 

しかし、こうした最も換金性の高い更地との比較を考えれば、預金(しかもこれは税引き後の資産)がいかに有利であるかがおわかりいただけるでしょう。では、建物付きの土地はどうでしょうか。一例として、そこには20年前に3000万円で建てた自宅があるとします。

 

この場合に問題となるのは建物の売れる値段です。結論を言えば20年も経過している建物の市場価値はほぼゼロとされています。しかし、この建物は物理的に見てもまだ20年は十分使えるでしょう。さらに所有者・売主にしてみれば、主観的には2000万円程度の使用価値はあると思っているのかもしれません。

 

ただ、これを売りに出せばほぼゼロ。買主から「取り壊して、更地渡しにしてくれ」などと言われようものなら、むしろ取り壊し費用の分がマイナスとなってしまいます。築後20年でゼロと言われることからもわかるように、中古の建物の市場価値は驚くほど速いペースで下落していきます。つまりこうした土地建物に関しては、建物に感じていた資産価値の大半をあきらめなければ売却できないことになります。

相続税評価は市場価値と乖離した「建前的」な評価

次にアパートです。この場合にはアパートの収益性が売値の水準を決めます。一般に「土地を遊ばせておくよりも・・・」といった流れで建てられたアパートの収益性はあまり期待できません。そうであれば「更地価格+建築費」の額の半値に近いものにもなりかねません。

 

となればこの水準では、とても売る気にはならないでしょう。つまりアパートを建ててしまえば、その土地建物には流通性がほぼなくなってしまうわけです。

 

今度は共有を考えます。これがウマの合わない人との共有物であれば、流通性抜群の更地であっても、その換金性に関しては相当のリスクがあります。一緒に売りたいと言っても拒否される可能性が高いからです。むろん共有持ち分などは誰も買ってくれません。ただし円満な身内との共有であればノープロブレムです。

 

借地権と底地の関係は、先のウマの合わない人との共有関係と同じと言っていいでしょう。つまり、地主の所有する底地は換金性がほとんどありません。こうした換金性の欠如は、本来の資産価値に極めて大きな影を落とします。

 

いろいろ述べてきましたが、肝心の相続税評価は何を評価しようとしているのでしょうか。その結論はズバリ市場価値です。したがって、たとえば相続財産の評価額が2億円であったとすると、それは2億円の預金があったと同じと考えているわけです。そうであれば、今にも2億円で売れる土地でなければ、「話が違う」となってしまうでしょう。

 

ところが実際の相続税評価はまったく違っています。土地の換金性の問題など何ら考えていません。アパートの収益性がどうであろうが、どのような共有関係であろうが、借地権・底地であろうが、他人の抵当権がついていようがおかまいなし。それらを一切無視した上での建前的な評価となっているのです。

本記事は、2014年2月27日刊行の書籍『相続税を減らす不動産相続の極意』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

相続税を減らす不動産相続の極意

相続税を減らす不動産相続の極意

森田 義男

幻冬舎メディアコンサルティング

相続税対策の成否は「土地の相続税評価をいかに行うか」にかかっています。 しかし、専門家であるはずの税理士や金融機関の担当者等が、まったくと言っていいほど不動産を知らない状況にあるとしたら…。 本書では二十数…

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