生命保険金を「遺産分割の対象」とした、最高裁の判例
■チェックポイント:生命保険金についての最高裁判例
「生命保険金についての最高裁判例」とは、生命保険金は原則として、受取人固有の権利であり、遺産分割の対象ではなく特別受益になることはないのですが、最高裁は、
「保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法…の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、同条の類推適用により、…死亡保険金は、特別受益に準じて、持戻しの対象となる」
と判断し、相続人間の公平の観点から例外的に、生命保険金が特別受益に準ずる扱いを受けることがあるとしています。
つまり、相続人の中に多額の生命保険金を受け取った者がいる場合、それを無視して相続分を計算すると他の相続人と不公平になることがあるので、そのような場合には、その者が受け取った生命保険金の額を遺産に持ち戻した(加算した)金額を遺産総額とし、その金額に法定相続分を乗じて各人の具体的相続分を算出することにより、保険金を受け取っていない相続人の取り分を増やしてあげようということです。
■チェックポイント:調停委員会
「調停委員会」とは、調停委員2名と裁判官(又は「家事調停官」)1名の3名で構成される調停手続の主宰者のことをいいます。通常の調停では、調停委員2名が当事者から話を聴き調停手続を進めていくのですが、実際には裁判官(又は「家事調停官」)も調停委員会の一員であり、調停の進め方などについては適宜、調停委員と評議をしながら進めています。
私が家庭裁判所の「家事調停官」(いわゆる「非常勤裁判官」)をしていたときも、私自身は普段は裁判官室にいて、ここぞという場面では調停委員から呼び出しを受け、当事者や代理人を直接説得して調停を成立させることもありました。
何が違う?民法上の相続財産、相続税法上の相続財産
ややこしいのですが、民法上の遺産分割の対象となる「相続財産」と相続税が課税される対象となる「相続財産」とは異なります。たとえば、本件でご紹介した生命保険金はその典型例としてよく問題となります。
生命保険金は、特定の相続人を受取人に指定した場合だけでなく、受取人が単に「相続人」と指定されていた場合でも、民法上の遺産分割の対象となる「相続財産」ではありませんが、相続税が課税される「相続財産」には該当します。
また、貸金債権や損害賠償債権等、預貯金債権以外の金銭債権は「可分債権」といわれ、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割相続されるので、民法上の遺産分割の対象にはなりませんが、相続税の課税対象となる「相続財産」には該当します。
さらに、生前贈与の扱いにも違いがあります。たとえば、被相続人から金銭等の生前贈与を受けた相続人がいる場合、民法上は、いつ生前贈与を受けたとしても、「特別受益」として持戻しの対象となり、「相続財産」に加算されますが(「みなし相続財産」といいます)、相続税が課税される対象となるのは相続開始前3年以内の生前贈与に限られます。
この他によく問題となるのは、「葬儀費用」です。葬儀費用は、相続開始後に発生する費用であり被相続人自身の債務ではありませんので、民法上は遺産分割の対象にはなりませんが(一般的には「喪主」の負担とされています)、相続税の課税対象となる「相続財産」を計算する際には葬儀費用を控除することができます。なお、葬儀費用やお墓の費用等については、相続人が応分に負担すべきという感覚をお持ちの方も多いと思われますし、そのような感覚ももっともです。実際も、そのような解決を図る事案も多いです。
同様に、被相続人の金銭債務も相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割相続されるため、遺産分割の対象にはなりませんが、相続税の課税対象となる「相続財産」から控除することが認められています。
このように、民法上の遺産分割の対象となる「相続財産」と相続税の課税対象となる「相続財産」とは範囲が異なりますので、相続税などの税金面については、相続税に詳しい税理士にご相談することをお勧めします。
加藤 剛毅
武蔵野経営法律事務所 代表
弁護士、元さいたま家庭裁判所家事調停官
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