近年、相続トラブルが増加しています。感情的な対立が起こると話し合いによる解決が困難となり、家庭裁判所で調停の申し立てを行わざるを得ないケースも…。200件以上の相続事件に携わってきた筆者が、実際の事件をオリジナルストーリー化して紹介。相続に関する「紛争」の解決策、未然防止策を解説します。※本連載は、武蔵野経営法律事務所代表・加藤剛毅氏の著書『トラブル事案にまなぶ「泥沼」相続争い 解決・予防の手引』(中央経済社)より一部を抜粋・再編集したものです。

安易な「寄与分」の主張は紛争長期化を招くおそれ

■チェックポイント:不動産の評価額

 

「不動産の評価額」には4種類ありますが、遺産の中に不動産があると、必ずといってよいほど、不動産の評価額が争いとなります。

 

不動産の評価額には、時価(実勢価格)、公示価格、相続税評価額(路線価)、固定資産(税)評価額という4つの種類があります。

 

公示価格は、国土交通省が特定の標準地について毎年公示する価格であり、いわゆる正常な価格(自由公開市場で取引が行われるとした場合において、その取引において通常成立すると認められる価格)として算出され、時価(実勢価格)に近いとされています。

 

相続税評価額(路線価)は、相続税・贈与税の算出の基準となる価格であり、路線価方式・倍率方式のいずれかにより算出されています。この路線価については、公示価格の80%を目処に設定されています。

 

固定資産(税)評価額は、固定資産税の課税標準額を定める基準となる価格であり、公示価格の70%を目処に設定されています。

 

遺産分割での不動産の評価は、原則としてその不動産の時価を基準としますが、当事者双方が合意すれば、必ずしも時価を基準とする必要はありません。

 

この点、不動産の時価は公示価格に近いとされているため、相続税評価額(路線価)を80%で割り戻したり、固定資産(税)評価額を70%で割り戻したりして概算額を算出することもあります。

 

これまでの経験を踏まえた私の感覚では、土地については、双方が複数の不動産会社の査定書を提出し、その査定価格の平均額を評価額とする方法、不動産会社の査定価格と相続税評価額(路線価)との平均額を評価額とする方法などが多いです(なお、不動産鑑定士に鑑定評価書を依頼することもありますが、相応の費用がかかるため、実務上は不動産会社の無料の査定書を利用することが多いです)。

 

他方、建物については新築の一戸建てやマンションであれば別ですが、遺産となる建物は通常、かなりの築年数を経ていることが多いので、評価額をゼロとするか、評価額を計上するとしても固定資産(税)評価額を計上することがほとんどです。

 

■チェックポイント:特別受益

 

「特別受益」とは、被相続人が特定の相続人に生前贈与等をしていた場合、実質的には遺産の先渡しをしたことになり、そのままでは相続人間で不公平になってしまうので、生前贈与された財産を金額に評価して、その価格を相続財産に加算(「持ち戻し」といいます)して、相続分を算定し、相続人間の公平を図る制度のことをいいます。

 

特別受益が認められるためには証拠が必要となりますので、相手方に特別受益があることを主張する場合には、それを裏付ける証拠として何があるのかを精査することが必要です。

 

■チェックポイント:寄与分

 

「寄与分」とは、相続人の中に、被相続人の財産を維持又は増加させたことについて特別の寄与(通常期待される程度を超える貢献)をした者がいるときに、相続財産からその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなして一応の相続分を算定し、その算定された一応の相続分に寄与分を加えた額をその者の具体的相続分とすることで、その者に相続財産のうちから相当額の財産を取得させ、相続人間の公平を図る制度のことをいいます。

 

寄与分には次のような類型があります。

 

①家業従事型:無報酬又はこれに近い状態で、被相続人が経営する自営業に従事する場合

②金銭等出資型:被相続人に対し財産の給付を行う場合

③療養看護型:無報酬又はこれに近い状態で病気療養中の被相続人の療養看護を行なった場合

④扶養型:無報酬又はこれに近い状態で、被相続人を継続的に扶養した場合

⑤財産管理型:無報酬又はこれに近い状態で、被相続人の財産を管理した場合

 

寄与分を認めてもらうためには非常にハードルが高いので、認められる見込みがないのに安易に主張をすると、いたずらに紛争を長期化させてしまうおそれがあります。このため、寄与分を主張する場合は、それが認められる可能性があるのか、事前の十分な検討が不可欠でしょう。

 

 

加藤 剛毅

武蔵野経営法律事務所 代表

弁護士、元さいたま家庭裁判所家事調停官

 

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