日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第1回目のテーマは「高級腕時計」。

真面目な日本人を彷彿させる「セイコー」

セイコーのグランドセイコーシリーズはクロノメーターを上回る精度と機構を備えているのに相対的に安い。衛星電波時計「アストロン」で大谷翔平を起用したところはまさに真面目な日本人に訴求する広告である。

 

確か安倍元首相をはじめ、日本の閣僚には衛星電波時計ファンが多い。新型の機械式GMTシリーズ等は価格も他社に比べてリーゾナブルで愚直に時計を作るセイコーの一途な姿勢にほだされ、間違って買ってしまいそうな値ごろ感が光る。

 

セイコーは今度、オメガの向こうを張って、宇宙船に乗り込む野口聡一氏にグランドセイコーを無償供与すべきではないだろうか。しかし負圧が働く宇宙空間での作業には200m完全防水は耐えられないかもしれない。それにGMTという発想そのものがロレックスへのオマージュになってしまっているので、やはりセイコーは、「ロレックスの呪縛」を解き、電波と機械式の二刀流パラダイムを超えて「UTCマスター」にすべきだと考える。

 

宇宙といえば、オメガがアポロ計画で採用され、スピードマスターが月まで行けたのは、きっと5気圧防水というゆるい防水性能だったからだと、子どもの頃から考えていた。負圧の働く宇宙空間ではムーブメント(本体)内の空気が抜けて、気圧変化に順応できた事によるのだろう。

「パネライ」が似合う日本人は、なかなかいない

ヘビーデューティーな時計といえばパネライ。イタリアの潜水艦乗組員のために開発され特殊部隊御用達の潜水性能を誇るこの時計。映画「トランスポーター」でジェイソン・ステイサムが着けているのだが、なぜか最初の登場シーン、BMW7シリーズの車中でアラーム音が鳴り響く。「これは機械式時計。ガジェット好きで知られるリュック・ベッソン流のジョークなのか」と思った人も多いだろう。

 

これは着けてみると相当重い。44mmのケースは日本人の手首からはみ出すくらい大きすぎて、なかなか似合う人に出会ったことがない。パネライはラグビー日本代表くらいの体格がないと絶対に似合わないのだ。

 

しかし文字盤大きくて見やすいから老眼で悩むシルバー世代には視認性抜群で、シンプルな「ルミノール」あたりは、革ひもを付けて懐中時計に加工すれば、うってつけのサイズかもしれない。

 

さらにスマートウォッチ。仕事がデキる人の多くが着けているが、彼らは物を所有することに興味はなく、ロレックスもパテックもほとんど知らない新しい世代。アップルウォッチに代表され、使いきれない健康管理機能や、価格も3~4万円とお手軽ということもあり、その出荷量は年々増加の一途を辿っている。

 

特筆すべきは、GMTマスター2みたいなオトコゴコロをくすぐる表示画面も、アップルウォッチ最新型には装備されている。

 

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