日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第3回目のテーマは「贋作をめぐる攻防」。

贋作をめぐる裁判…最高裁での勝訴

2018年11月17日、最高裁判所でルノワールの絵画をめぐる判決が言い渡された。この裁判で真正と所有権が争われたピエール・オーギュスト・ルノワール作「マダム・バルタの肖像」は、キャンバスに油彩による作品で大きさは縦55cm・横48cm、つまりフランスのキャンバスサイズではF10号と表記されるもので、ルノワールが当時、画家仲間であったルイ・バルタの妻である女性を描いた1902-1903年頃の横向きのポートレイトである。

 

2013年2月、印象派絵画オークションがロンドンのサザビーズで開催、ルノワールは90万ポンドで落札された。ところが元所有者を名乗る人物が2013年3月にサザビーズに異議を申し立て、オークション落札代金の支払いが凍結されてしまった。

 

さらに翌年、2014年4月にはこの人物は東京地裁に提訴する。今から20数年前に自宅から盗難にあったルノワールの絵画がロンドンのサザビーズのオークションに突如、出品され落札されたことを知り、所有者の美術商を盗難容疑で訴えたのだ。所有権を主張するこの人物は売買代金を要求していた。訴えを起こされたのは筆者が長く知る真面目な美術商であり、彼にとってもそれは晴天の霹靂であった。

 

この美術商からの依頼で筆者は、まず東京地方裁判所で行われた第一審の裁判で、これら一連の絵画が同一のものであるか、鑑定書が果たして正しいものかについての証言を法廷ですることになった。なぜこのような依頼を請け負ったか? それはざっと資料を見た限り、「勝てる」と判断したからに他ならない。

 

結果、元所有者を名乗る人物の訴えは第一審、第二審、そして最高裁まですべて棄却され、知人の美術商の勝訴となった。判決文の約7割が筆者の陳述書に基づくもので、この知人美術商の濡れ衣を晴らすことに貢献することができた。しかし売却代金約1億5千万円の支払いが凍結され、裁判の判決が出るまで受け取りが5年にわたって遅延。その間にポンドが下落したため受取金額が減少し、出品者の美術商は大きな損害を被ったのであった。この裁判をめぐって明らかにされた、美術品売買に潜む大きな落とし穴について述べていこう。

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