日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第1回目のテーマは「高級腕時計」。

金融商品として取引される「ロレックス」

そのようなGMTとは露知らず、筆者は学生時代、フットボウラーで、タックルとノーズガードをこなしたのだが、GMTマスター2を購入して以来、幾度となく冒険の旅に出た。25年でGMTマスター2と共に地球を150周はした。それでも筆者のGMTマスター2は調子が良かった。

 

1987年アマゾン川にて ピラニアとナイフとGMTマスター2(写真:筆者提供)
1987年アマゾン川にて ピラニアとナイフとGMTマスター2(写真:筆者提供)

 

GMTマスター2は、地球をグルグル回るもうひとつの職業である国際線パイロットが愛用した時計としても知られている。

 

25年後、「GMTマスター2」を手放したときには何の未練もなかった。「ロレックスなんて、実用品。時計もクルマも使ってナンボのもの」……ところがである。

 

今やロレックスは金融商品。この20年でアジアの投資家がこぞって買い求める男の立派なコレクションアイテムとなった。コレクターが購入するとオリジナルケースや保証書が厳重に保管されてそのまま数年たつと2次流通市場でピカピカのロレックスがプレミア価格で転売されている。

 

買ってもまったく着けることなく、裏の緑のシールもそのまま。乱暴に使い込まれていた筆者のGMTマスター2に比べるとちょっと可哀想な「箱入り時計」たちである。

 

現在、腕時計は毎年春にスイスのバーゼルで開催されるウォッチフェアに新作が発表されている。ロレックスも当然、サイズを変えるなど、日に日に進歩している。

 

しかし今年はコロナの影響でフェアが中止され、メーカーは各社が独自にネットなどを活用して新作を発表している。ミルガウス2020はまるでサブマリナーのようにガラッと変わっている。秒針にはピカチュウのシッポを採用したらしい。

 

腕時計のオークションレコードでは近年、このデイトナが決定付けた。2017年にニューヨークのフィリップスで約1800万ドル(約20億円)で落札されたこの腕時計は、世界中で販売されたすべての機械式時計で最も高価なものの1つである。

 

デイトナが放つオーラ(写真:筆者提供)
デイトナが放つオーラ(写真:筆者提供)

 

ポール・ニューマンは1969年から1984年までの間、毎日この時計を着用していたと報告されているが、元々、この時計は彼の妻ジョアン・ウッドワードから、ニューマンへの贈り物。 60年代後半にリリースされた映画「Winning」を撮影していたときに彼にプレゼントされたものだった。

 

1984年にニューマンの娘のネルの元ボーイフレンドに贈り物として贈られ、その後、所有者も変わり、腕時計をオークションに出したところ匿名のバイヤーによって電話で落札された。ニューマン自身が愛用し、15年間レースなどで使い込まれたデイトナが放つ存在感は、きっとエンジンオイルも染み付いていて「箱入り時計」たちには無い強力なオーラを放ってる。

 

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