髪留めにもなるブルガリのトランブランブローチとエメラルドペンダントブローチ。154万ドルで落札©クリスティーズ

日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米の富裕層の間では美術品が価値ある資産として扱われ、オークションなどを通じて、古いものであっても高値で取引きされています。アートコンサルタントの第一線で活躍する長柄発氏が、知られざるアートシーンを、自身の経験も交えて紹介していきます。第2回目のテーマは「世界最高のジュエリーコレクション」。

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エリザベス・テイラー・コレクション開催決定も

2011年12月にクリスティーズが5回のオークションで総額120億円(115ミリオンドル)で販売した「エリザベス・テイラー・コレクション」は、オークションの歴史に残る一大個人コレクションであった。中でもジュエリーはこのコレクションの白眉である。世界的な女優でありながら、ジュエリー・コレクターとしても卓越した審美眼を持っていたエリザベス・テイラーのコレクションについて解説し、ヴァンクリーフ&アーペルやブルガリなどのセカンダリージュエリーの魅力について語る。

 

2011年と言えば、筆者はクリスティーズの要請で日本法人代表職を勤め始めて二年が経過していたころである。3月には東日本大震災が発生し、原発災害翌日にはいわき市の自宅から石川県の実家に避難した。半年間、避難生活を送り、クリスティーズのオフィスのあった銀座までは週に1往復する飛行機通勤となった。

 

当時の社員も突然の大災害で避難し、京都や沖縄や、果てはニューヨークまで避難する強者もいて、「おいおい経費出るのかよ!」と気をもんだのだが、さすがにオーナー、フランソワ・ピノー氏の鶴の一声で、東京オフィス社員の避難費用全額が経費で拠出された。いい会社である。筆者にとっては週一の石川東京往復で確実にマイルは貯まったが原発事故もありストレスも溜まる「痛勤」であった。

 

この年にはクリスティーズと言えども日本からの出品も一時滞り、ビジネスも困難を極めた。しかしながら、ジュエリー部門から一通の希望のメールが届いた。「エリザベス・テイラー・コレクション」開催と下見会巡回の社内通知である。「そうか、とうとうあのコレクションが売られるのだな。」と感慨にふけるのもつかの間、プレビュー巡回先を眺めているとある重大な事実に気が付いた。「あれ? プレビュー(下見会)巡回先に日本、入ってない!」。わが目を疑った。

 

このように重要なコレクションであれば、ニューヨーク、ロンドン、ジュネーブ、ロサンゼルス、東京、香港あたりを巡回し、場合によっては当時はドバイなども回ってオークションにかけられるのが普通であったのだが……「なんと東京が抜けているではないか! これはジャパンパッシングだよ。ハミさん、フランソワに掛け合ってくれ」と筆者は直ぐにジュエリー担当社員に檄を飛ばした。

 

フランソワとはフランソワ・キュリエル。クリスティーズを代表するジュエリーのスペシャリストであり世界的に知られるレジェンドである。筆者がクリスティーズ入社してすぐクリスティーズアジアの会長を務めていたフランソワに香港で会った。面識はあったが「ノブはフレッド・レイトン日本代表だったんだよね?」と筆者のことはお見通し。ダイヤモンドも色別にデータベースを自ら構築しており、楽しそうにカラーダイヤのマーケットについて見せてくれたのを記憶している。実際、フランソワはエリザベス・テイラーさんとはずっと昔から懇意で、良き理解者であった。彼女の生前にフランソワがまとめた「エリザベス・テイラー ジュエリーへの愛」という書籍を出版していたため、クリスティーズとの絆は強いものであった。

 

エリザベス・テイラー ジュエリーへの愛 画像:筆者提供
エリザベス・テイラー ジュエリーへの愛
画像:筆者提供

 

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