あえて「別分野の講師」を招く、医師の勉強会
現在、私は研究員として、医療ガバナンス研究所に所属している。そこでは、研究の傍ら、月2回ほどの勉強会の開催も担当している。「プラチナ勉強会」というものである。
プラチナ勉強会は、医療ガバナンス研究所の理事長である上昌広先生が、東京大学医科学研究所の特任教授に就任した際に、従来行ってきた「虎の門勉強会」を改名したものとなる。「プラチナ」という名前は、医科研の前にあるプラチナ通りからとったものである。
この勉強会は、記録を辿る限り2006年11月からずっと続いてきたもので、今年で10年以上の歴史を有する。私は2019年8月より事務担当を引き継ぎ、月に2回のペースで、2020年10月現在まで24回ほどの勉強会を開催してきた。
プラチナ勉強会は基本的に平日の夜に行われ、1時間半の講演、30分のディスカッションで構成される。また、勉強会が終われば会場を飲食店に移動して、希望者のみで懇親会を行ってきた。2020年新型コロナウイルスが流行して以来、オンライン開催などで懇親会を行えない回も何回か生じてしまったが、この勉強会+懇親会の流れは従来から変わっていない。
本稿では、勉強会を主催して得られた経験をもとに、なぜこのような会を開催するのか、なぜ勉強会という形式か、またその裏方での苦労やノウハウについて説明していきたい。
プラチナ勉強会では、様々な分野で活躍している人々を講師として招き、その方のご所属やご自身が抱えている問題や関心について双方向で語ることができるような会にしている。
テーマも講師の自由としているため、医学のみならず様々な分野に対する知識に触れることができる。今までの講師の一例として、各大学の教授、新聞社長、SNSインフルエンサー、ジャーナリスト、医師、国会議員、官僚、オリンピック内定選手などを招いてきた。
勉強会の参加者もその時々で様々で、プラチナ勉強会のメーリングリストに登録している医師を中心に、企業の方、弁護士、官僚、医学生などがいる。希望者は誰でも参加できるようなオープンな勉強会にしているため、この機会に興味を持った人はぜひ参加してほしいと思う。
異分野間の交流が起こす「新しい化学反応」
勉強会を行う最大のメリットとして、私は様々な分野の人々が、お互いに交流できることにあると考える。1770年代、エジンバラで月一回、満月の晩に集まった会合がある。「月光協会(ルナー・ソサエティ)」と呼ばれるものである。
この会のメンバーとして、酸素の発見者であるプリストリー、蒸気機関の発明者であるワット、有名な陶芸家であるウェッジウッドなどがいる。その中心的存在は医師のエラズマス・ダーウィンで、進化論のチャールズ・ダーウィンの祖父である。こうした人々がお互いの研究・実験・調査結果や知識、見聞を活発に交換しながら、科学技術、製造、企業経営、公共事業、教育等様々な領域で大きな成果を生み出してきたといわれている。
プラチナ勉強会も、いわばこの「ルナー・ソサエティ」を目指すべきだと考えている。新しい思考を生み出すためには、同一分野の専門家を集めて議論するよりも、めいめいが別々のことを専門とする人々の方が知的創造力は上がるといわれている。できるだけ違った分野の人々と、勉強会で議論し、さらにお酒を交えた懇親会にまでもっていくことは、その人と仲良くなれる絶好の機会であり、新しい化学反応を生み出す場でもあると私は感じる。長い付き合いへと発展できるのである。
たとえば、ジャーナリストの鳥越俊太郎さんは春の勉強会の講師として来てくださり、その後もSNS上で交流を持ち続けている。また、競輪選手である新田祐大選手は夏に来てくださり、同じ福島出身であることで話が盛り上がり、福島でも同じことをしようと、今後の予定も立てている。
今年の11月7・8日、私が所属している医療ガバナンス研究所が主催するシンポジウム「現場からの医療改革推進協議会」が開催される。私も7日に発表することになっている。このようなシンポジウムに参加することにって、新しい人と知り合うことができ、勉強会の講師を見つける場にもつなげている。ネットワークを形成するには、いろんな場所での出会いを大切にしなければと思う。