介護保険で「介護付き有料老人ホーム」が広がった
老人ホームはこう進化した
その昔、老人ホームは、一部の富裕層のためのものでした。地域の有力企業の経営者が社長の座を子供に譲り、ご夫婦で有名リゾート地にある老人ホームに入居したという話が私の身近にも多々ありました。そこには老人介護といったキーワードはまったくなく、悠々自適なシニアライフというキーワードがぴったりです。天然温泉が付いていたり、カラオケなどの娯楽室があったりと、至れり尽くせりです。おまけに提携医療機関が有名病院だったりします。
老人ホームに数千万から数億円の入居金を支払い、多くの高齢者は喜んで生活をしていました。そのような老人ホームの運営事業者の多くは、一流有名企業の関連会社だったりして商売というよりも、どちらかと言うと一流企業の社会貢献や企業のイメージアップを狙った広告宣伝的な側面のあった事業だったと思います。
そして多くのケースの場合、要介護状態になり、周囲に迷惑をかけるような状態になると、老人ホームから退去を強いられ、関連病院などに入院するという流れになっていたはずです。これが介護保険施行前までの民間の有料老人ホームの話です。特別養護老人ホームの話ではありません。
ご存知のように、2000年から介護保険法が施行されました。これを契機に、一気に日本中に介護付き有料老人ホームが広がっていきます。当時、私の勤務していた介護事業会社も、この波に乗って介護付き有料老人ホームを首都圏を中心に拡大成長させていきます。民間経営の有料老人ホームの場合、2000年前までは自立の高齢者が中心の高級老人ホームが主流でした。2000年以降は、介護保険報酬を狙った要介護状態の高齢者が主流になっていきます。
高級か高級ではないかという視点で話を振り返ると、2000年当時は、まだまだ老人ホームは高級路線だったと記憶しています。が、介護保険制の導入を皮切りに、年々多くの企業が老人ホームビジネスに参入し、右肩上がりに老人ホームは供給されていきます。
当然、地域内での老人ホーム間での競争は年々激しくなり、料金は自然と下がり続けていきます。当時よく業界内で話されていたのは、「老人ホームビジネスは、後出しジャンケンのほうが強いよね」という話です。
つまり既存ホームの近隣に新しい老人ホームが出店すると、そのホームのほうが当然、新しい綺麗広いそして安いということになり、既存ホームのその地域内での価値観が損なわれていきます。もちろん既存のホームもこの状況に手をこまねいて見ているわけにはいきませんから、反撃に出ます。「当ホームは、この地域で介護一筋10年間の実績があります」とやります。つまりホームは少々古くなっていますが、そこで提供されている介護の質は高いですよ、何と言っても長年やっていますからと言うのです。