なぜ生じる?ドトールとルノアール、コーヒー価格の差
会計は英語・ITと並ぶ「ビジネス三種の神器」ともいわれますが、それは会計が日常生活に役立ち、どんなビジネスを行う上でも必要不可欠な数字を活用できるスキルであるからです。特に、このビジネス上必要な数字を活用するという部分については、決算書を読むというスキルでほぼ全て得ることができます。
しかし、決算書を読めることの最大の魅力は、読むスキルを身につけた際のメリットが大きいという「実利」の面と、企業の隠された戦略を読み解けたときの面白さがあるという「謎解き」の面の両輪を兼ね備えているところにあります。
――「会計が謎解きって、一体どういうことですか?」
ということで、ここで1つ問題を出したいと思います。老若男女問わず、誰もが一度はカフェを利用したことがあるでしょう。皆さんはそんなカフェで、「同じコーヒーという商品を売っているのに、なぜ値段がこんなにも違うのだろう?」と、疑問を抱いたことはないでしょうか。
ご存知の方も多いでしょうが、こうした値段の違いは企業それぞれの販売戦略によって生じます。
企業経営においては、「持続的に利益をあげる」ということが必要不可欠です。ただ、利益をあげるためには販売戦略を入念に練る必要があります。そして、販売戦略を考えるためには、他社が過去に行った販売戦略の効果を分析して、より効果的な戦略を練っていかなければなりません。しかし、企業の販売戦略は公表されることは少なく、もしもあなたが「とある企業の販売戦略を分析したい」と思った場合、分析は自らの力で行う必要があるのです。
ものは試しに、「カフェのコーヒーの値段の違い」をテーマにして、ドトールとルノアールの販売戦略がどのようなものか、考えてみましょう。
【今回の登場企業】
●ドトール・日レスHD
ドトール・日レスHDの事業会社が日本で展開するセルフ式のコーヒーショップチェーン「ドトールコーヒー」で有名。ドトールの店舗数は2019年12月現在でフランチャイズが918店、直営が188店と日本国内での店舗数は業界最多。
●銀座ルノアール
銀座ルノアールが展開する主要喫茶店チェーンが「喫茶室ルノアール」。東京・神奈川を中心に展開しており、大正ロマンをテーマとした内装に、ビジネスユースや語らいの場といったニーズに応えるゆったりした空間を提供する。
ドトールのコーヒーは220円~320円前後、ルノアールのコーヒーは530円~650円前後で販売されています(2019年12月現在)。この約2.6倍の価格差は、どのようにして生まれていると思いますか?
「商品の材料」や「店舗の立地」など、考えるための材料はたくさんありますが、実際に「どのようなものが、その価格に大きく影響しているのか」? それは、机上で想像することはできても、根拠がなければ断定まではできませんよね。
こうした影響の大きさを測るためには、数字などの定量的なデータを分析することが必要不可欠です。
そしてお気づきの通り、企業の数字に関する情報が詰まっているのが「決算書」です。決算書は、「企業が今持っている資産や負債の状況」「1年間の売上や費用に関する情報」などをまとめたものです(詳しくは後述します)。これを読み解けるようになれば、先ほどのような「疑問」を分析するためのエビデンスが得られるのです。
参考までに、まずはドトールとルノアールの決算書を見てみましょう(図表1~3)。いきなり「はい、読んでくださいね」ということではなく、ざっとどのような項目があるのかを流し見していただければ結構です。