コーヒー価格差の原因は「販売戦略の違い」
さて、問題に戻りましょう。なぜこの二者のコーヒーには、値段の違いが生じるのでしょうか。
そもそも、ドトールとルノアールでは、注文方法や店内の設計が大きく異なります。ドトールでは、お店に入ってすぐのカウンターでコーヒーを注文し、会計を済ませた後にコーヒーを受け取って席に着きます。一方のルノアールでは、お店に入ったらまずは席に着き、席で店員さんにコーヒーを注文し、最後に伝票を持って、レジで会計を済ませます。
また、ドトールは席に背もたれがないイスを採用するなど、テーブルのスペースが小さめに設計されていますが、ルノアールは高級感のあるイスを採用し、テーブルのスペースが広めに設計されています。
このように、同じカフェでも様々なものが異なります。ここから読み取れることは、「ドトールは顧客の長期滞在を前提とせず、たくさんの顧客に商品を購入してもらうという戦略なんだな」ということです。これを、一般に「回転率が高い」と表現します。
一方で、「ルノアールは顧客の長期滞在を前提としていて、顧客に快適な空間を提供するかわりに、その代金も商品の中に組み込むという戦略なんだな」と読み取れます。
そしてこのような差は、しっかりと決算書にも反映されています。ルノアールのように店内の空間や設備にお金をかけると、もちろんそのぶんは大きくコストがかかります。ですが、スペシャリティコーヒーなどを除けば、こういったチェーンのカフェにおけるコーヒーの原価はお店によってそれほど異なるわけではありませんので、1つのコーヒーあたりの単価が高いルノアールの方が、原価率は大きく下がります。
言い換えると、ドトールとルノアールでコーヒーの原価が同じ場合、1つのコーヒーあたりの単価が大きい方が、商品に占める原価の割合が小さくなるということです。
実際に損益計算書(P/L)を見てみると、ドトールの原価率が39%なのに対し、ルノアールの原価率は12%しかありません(図表4)。原価率の違いは、単価によって生じているもので、単価はそれぞれがどこまでのサービスを顧客に提供するか等の販売戦略によって異なるということがわかります。
――「実際に分析の裏付けとして決算書という数字の根拠があることで、筋の通った分析ができるようになるんですね。」
ちなみに、ドトールとルノアールの価格差は他にも原因があるのですが、それはまた別の機会に詳述しましょう。
<「原価率」って?>
売り上げた商品に対して、どれほどの原価がかかったのかを図る指標。どのような業種にも使われる重要な指標。
原価率(%)=売上原価÷売上高×100%
企業の強み・弱み、販売戦略までわかる、決算書の凄み
さて、先ほどの例で、皆さんはもう決算書の一部を読めるようになりました。決算書分析の中でも特に重要な売上高と売上原価、そしてその関係性についてが、なんとなくでも頭で理解できたと思います。
このように、事例を通じて決算書を見ていくことで、どんどん決算書の内容が理解できるようになるのです。ただの数字や専門用語の羅列にしか過ぎなかった決算書が、事例というフィルターを通すと、たちまち身近なものになります。
また、決算書からは、普段は見ることのできないその企業のビジネスの全貌はもちろんのこと、その企業の強みや弱み、販売戦略さえも読み取ることができるのです。
仕事上、競合企業や特定の企業を分析したり、自社を分析したりする必要のある人は、たくさんいます。それは、決算書にそれだけ重要な情報が詰まっているからです。
しかし、こうした分析を初めてする人のほとんどが、どのように分析すればよいのかわからず、苦しんでいるというのが現状です。
これから本連載では、皆さんが「とにかく楽しく決算書を読めるようになる」ことを主眼にご説明していきます。
読むだけで「決算書のキモ」を理解し、何よりも、「決算書をビジネスの視点で読み解けるようになる気持ちよさを味わえる」ことを目標としました。
「利益率」「流動比率」のような指標の意味とその算出方法を知っているだけでは、残念ながら財務諸表を読めるようにはならないからです。
決算書を読むということは、数字に目を通すだけではなく、決算書から企業の戦略まで読み解くことを目指すべきです。そして、その目的のもとでは、生きた財務諸表を使って、実際の戦略と決算書の数値を併せて見ていく必要があります。
本連載の提案する「世界一楽しい決算書の読み方」で、会計に興味を持ち、決算書を読む楽しさに気づいていただくことができたなら、著者として、これ以上にうれしいことはありません。
次回以降の記事では、個性豊かなキャラクターたちと一緒に、実際の企業の決算書を様々な視点で読み解いていきます。キャラたちの会話を読み、一緒にクイズに答えながら、決算書を最速でマスターしていきましょう!
※本記事に掲載の情報は特段の注や付記がある場合を除き、2019年12月書籍執筆時点での各社決算書情報を参照しています。
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