「一人きりでは逝かせない」職員の入居者への声かけ
ここで、読者の皆さんに勘違いしてほしくないことがあります。それは、身体状況に変化が生じた場合、そのままフロアや棟を移動せず、同じフロアで過ごすことと、身体状態に対する専用教育を受けたスタッフや装備が充実している専用フロアに移動して過ごすこととのどちらが正しいか、ということではありません。どちらでもかまいませんが、決められたらぶれずに方針に沿って運営をしていくことが重要だということです。
ホームの運営ルールとして、「~~ができなくなったら専用フロアに移動する」というルールがあるのであれば、その移動は厳格に実施しなければならないし、最初に入居したフロアに最後まで住み続けること、つまり〝フロア移動はない〟をルールとしているホームであれば、それを忠実に実践すればよい、というだけの話なのです。それが、そのホームの運営に対する大方針になるからです。
しかしながら、多くの老人ホームでは、フロア分けをし、入居者を区別して管理しようとしているにもかかわらず、状態が悪くなっても入居者が「NO」と言えば、移動を見送るという、中途半端な運営をしているのが実態です。それでは、そもそも、何のためにフロア分けをしたのかということに対し、まったく辻褄、ストーリーが成り立っていません。
私が老人ホームで介護職員をしていた頃は、状態が著しく悪化し、目が離せなくなった入居者には、家族に説明した後、たとえ、5階フロア東南角居室であったとしても、看護師が常駐している2階フロアにある北向きの居室が空けば、そこに移動をしてもらうように頼んだものです。
多くの家族は、「すぐに看護師が対応できる居室に移動してもらえてありがたい」と喜んでいました。さらに、医者から「もう限界にきている。いつ亡くなるかは時間の問題である」、今ふうの言い方で言えば「看取り期の終末状態」と言われた入居者の場合は、介護職員が常駐している管理室の中にベットを持ち込み、そこで常に介護職員らに見守られながら過ごしていた入居者がいたことを思い出します。多くの介護職員は、管理室に入る時、出る時に、ベットをのぞき込みながら、入居者にひと声かけていきます。勤務が終わって帰る介護職員は「また明日ね」と言って帰っていきます。
これは、万一、入居者が息を引き取る時には「絶対に、一人きりでは逝かせない」という介護職員らの強い思いがあるからです。当然、今の基準やルールに照らした場合、そこには、入居者のプライバシーも糞もあったものではありません。しかし、少なくとも、関係者全員、このスタイルでの介護が正しい介護だと信じて疑ってはいませんでした。
一週間程度たったある日勤帯で、この入居者は多くの職員らに見送られて亡くなりました。同席していた家族は、ホームに対し、心の底から感謝していたことを思い出します。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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