どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

加齢による身体機能は低下するのが当たり前

入居者の実態を、素直に受け入れよう

 

入居者である高齢者の身体の状態は、間違いなく年々悪くなります。加齢による身体機能の低下です。よく識者が「高齢者とは失う経験の実践者」と言っている通り、日に日に、年々、今まで「できていたこと」ができなくなっていくのが高齢者の特徴です。したがって、たとえ自立で入居したとしても3年ぐらいたつと、認知症を発症したり、車椅子生活になったり、寝たきりになったりと、状態が悪化していくので、入居当時は適切だったフロアが、不適切になってしまいます。

 

さらに、入居時には自立していた入居者が、数年後には認知症になった場合などは、認知症フロアに移動するという行為に対し、多くの入居者や家族が「NO」と言って抵抗することにあります。さらに言うと、行政も移動には「NO」という見解だと推察することができます。

 

自立フロアから移動はしたくないという気持ちが強く芽生えてくる。(※写真はイメージです/PIXTA)
自立フロアから移動はしたくないという気持ちが強く芽生えてくる。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

身体的に問題が生じ、フロア移動の必要性が生じた場合でも、本人や家族が「NO」と言えば、フロア、棟の移動はできないということが主流となり、結果、フロアごとに区分し入居者を管理していくという方法論は事実上崩壊しています。

 

それでは、なぜ、本人や家族はフロア移動を「NO」と言うのでしょうか。その理由は「都落ち」したように感じるからです。つまり、自立のフロアに入居した入居者が、加齢により認知症状が発生し、認知症フロアに移動しなければならなくなるということは、「劣等感」「恥である」という思想が家族の中にあるからです。

 

自立で入居した高齢者が、たとえ認知症になったとしても、自立フロアから移動はしたくないという気持ちが強く芽生えるため、「うちの母親は認知症ではない」と家族が言い張り、自立フロアでこだわって、自立フロアで生活を継続していくことになるのだと思います。

 

介護職員には、「入居者評価」が染みついている

 

それでは、介護職員はというと、実は介護職員には、日常の仕事を通して「入居者評価」が体に染みついているため、入居者の身体の変化に対し、きわめて敏感に反応するのが普通です。

 

職員同士の雑談に耳を澄ませていると「最近、Aさんは居室の掃除ができなくなってきた。そろそろ、自立フロアにいられなくなりそうだ」とか「Bさんは、最近、失禁をしているようなんだけど、それを周囲にバレないように汚れた下着を箪笥の奥に隠しているようなの。排泄介助が必要だけど、Bさん、プライドが高いから……」というような会話が聞こえてきます。「自立フロア入居者の資格を失っているので、他の専用フロアへ移動するべきではないだろうか」ということを暗に言っているのです。

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誰も書かなかった老人ホーム

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老人ホーム リアルな暮らし

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