「相続は争族」、最近よく聞く言葉です。多くの皆さんは、別の世界の出来事だと思っています。でもあなたが亡くなったら事情は変わります。財産は、あなたがこの世に忘れて行った落とし物になります。落し物は誰がもらえるのでしょうか。…争奪戦の幕が開きます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備 』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
長男の妻激怒「お小遣いまでもらってたんでしょ⁉」
お兄さんの拓也さんは、とても静香さんの提案を受け入れるわけにはいきません。そんなことをしたら、実質上、家は全部静香さんに乗っ取られ、自分が手に入れることができるのは、登記簿上の共有権という紙切れに過ぎません。
拓也さんは、静香さんに、家を売って現金にして、預金と一緒に折半しようと逆提案しました。
静香さんも拓也さんも、あまりに2人の考えの違いが大きいことに愕然とし、1回目の交渉は物別れに終わりました。
拓也さんが自分の家に帰って、奥さんの聖子さんに、静香さんからの提案の話をすると、もうマンションを買う気になっている聖子さんは、烈火のごとく怒り出しました。
「あなた、静香さんの提案は、絶対に受け入れてはダメよ! 静香さんは、結婚に失敗した後、お父さんの家にただで住んで、お小遣いまでもらってきたんじゃない。その分だけ、あなたが多くもらってもいいぐらいだわ。家に戻ってから、もう4年になるんだから、毎月5万円得してきたとすれば、合計240万円にもなるのよ!」
「お母さんが亡くなったのだって、静香さんがお小遣いを使って、勝手に旅行に行ってしまったからだわ。もし静香さんがあのとき家にいれば、すぐに救急車を呼んで、お母さんを助けることもできたのよ! そんな親不孝な静香さんに余分に財産をあげる必要などないのよ!」
これをじっと聞いていた拓也さんは、「それもそうだな。聖子の言うとおりだな」と思いました。そして、次の交渉では、もっと静香さんに対して強く出ようと決心したのです。
一方、静香さんは、交渉がうまくいかなかったことに落ち込み、親しい友人に相談してみました。この友人は、数年前お父さんが亡くなり、相続を経験しているので、ちょっと相続に詳しかったのです。
友人からは、「お兄さんの言うことももっともだけど、あなたは収入の道がないのだから、家と土地の共有登記の線を譲っちゃダメよ。お兄さんの奥さんだって、まさかあなたと同居しようとは言い出さないわ」とアドバイスされました。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備