「相続は争族」、最近よく聞く言葉です。多くの皆さんは、別の世界の出来事だと思っています。でもあなたが亡くなったら事情は変わります。財産は、あなたがこの世に忘れて行った落とし物になります。落し物は誰がもらえるのでしょうか。…争奪戦の幕が開きます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備 』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
長男と無職妹がお金をめぐって…
1. 親が死ぬと豹変する兄弟関係
親が死ぬと、兄弟の関係は豹変します。兄弟は親あっての兄弟。親が生きていれば、利害対立はありません。せいぜい、兄貴は私立大学に行って高い授業料を払ってもらっていたのに、弟は国立大学で授業料が安かったから不公平だと文句を言う程度です。
ところが、親が死んで相続の段になると、兄がたくさんもらえば弟の取り分は減ることになります。ただの文句とか不平不満で済んでいたものが、金銭的利害対立に発展するのです。
ここで鈴木一郎さんの相続のケースを考えてみましょう。
一郎さんの配偶者は真理子さん、子どもは拓也さんと静香さんの2人がいます。拓也さんの方が、静香さんよりも2歳年上で、今33歳ですが、もう結婚し子どももいます。
一方、静香さんは、一度結婚して家を出たのですが、1年足らずで離婚し、今は家に戻っています。結婚したとき仕事をやめてしまったので、今は無職。親のすねをかじっています。
一郎さんは、家計の負担になることはわかっていながら、可愛がっていた娘が家に戻ってきたことは、ちょっとうれしいことでもありました。一郎さんは年金生活でしたが、元々質素な生活ぶりで、年金で十分に生活していけたので、娘の生活費の面倒を見、小遣いまで与えていました。
一郎さんは、まだ68歳。至って元気で、これから向こう10年ぐらいは、毎年奥さんの真理子さんと海外旅行に行き、世界の主立った国をすべて訪問してやろうと考えていました。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備