本記事では法定相続の理不尽さを見てみましょう。法定相続では、兄弟全員同じ相続分しかもらえません。誰かひとりが親と同居し、介護をしても、余程のことがない限りその世話をした分は相続分に反映されないのです。親孝行をした人はタダ働き、何もしなかった人は笑う相続人となっていきます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
風呂もトイレも同じ…義理の両親と「完全同居」の嫁
■生前の関係の深さと関係なく決まる法定相続
鈴木家では、三男坊の三郎さんが田舎でお父さんの英樹さんがやっていた農業の仕事を継いでいました。一郎さんや二郎さんは東京の大学へ行かせてもらいましたが、三郎さんを大学に行かせる余裕がなかったので、三郎さんは高校を卒業すると同時に英樹さんの農業を手伝うことになったのです。
農業の仕事では、頑張って朝から晩まで働いても、年間400~500万円ぐらいの所得にしかなりませんでした。三郎さんには妻の優子さんとの間に涼子さんがいましたが、三郎さんはほとんどお金をもらっていなかったので、東京の大学へ送りだすことはできませんでした。
優子さんは結婚してからずっと農業の手伝いをしています。家も昔ながらの農家ですから、今の2世帯住宅とは違い、英樹さん、葉子さん夫婦とお風呂もトイレも同じものを使う完全同居です。
それでも、優子さんは、持ち前の優しさとよく気のつく性格から、葉子さんとは仲良くやってきました。ときどきテレビドラマを見ながら、「私も東京に出て、サラリーマンの奥さんになっていれば、もっと楽しい生活を送れたのに」と思うことはありましたが、そんなことは家ではおくびにも出さず、せっせと農作業と家事に取り組んでいました。
5年前に英樹さんが亡くなった時にも、病院に泊まり込み、明け方亡くなった英樹さんの死に水を取ったのは優子さんでした。そして、由美子さんとの相続争いの後、突然認知症にかかった葉子さんの世話をしているのも優子さんです。
青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備