「相続は争族」、最近よく聞く言葉です。多くの皆さんは、別の世界の出来事だと思っています。でもあなたが亡くなったら事情は変わります。財産は、あなたがこの世に忘れて行った落とし物になります。落し物は誰がもらえるのでしょうか。…争奪戦の幕が開きます。 ※本記事は、青山東京法律事務所の代表弁護士・植田統氏の書籍 『きれいに死ぬための相続の話をしよう 残される家族が困らないために必要な準備 』(KADOKAWA)より一部を抜粋したものです。
「家にしがみつく子ども」の恐ろしい実態
この例を見ると、静香さんの粘り勝ちですね。
現金の取り分を本来の2分の1の900万円から600万円に減らし、300万円損をしたのですが、このまま死ぬまでこの家に住み続けることも可能になったのです。その上、拓也さんが1200万円の現金を元手にマンションを買ってくれたから、拓也さんの家族が、家に押しかけてきて、同居する可能性は完全に無くなっています。
静香さんの粘り勝ちの1件でした。
拓也さん、静香さんの争いから、いかに相続が難しいかがわかります。鈴木さん一家には、そんなに多くの財産があったわけではありません。それでもこれを分けるとなると、拓也さん、静香さんの言い分は違うのです。それぞれの事情があるのです。
特に、この例のように、静香さんが結婚に失敗して家に戻り、収入がなく、親と一緒に家に住んでいたという事情があるとやっかいです。静香さんの立場に立てば、その家に住み続けたいと思うのは当たり前です。
これは最近増えてきた結婚をしない息子、娘が親と同居している場合も同じです。静香さんとは違って、仕事を持っていたとしても、子どもは今の時代なかなか親の持っていた家と同じ広さのものは買えません。そういう子どもたちは、家にしがみつくのです。
植田 統
青山東京法律事務所 代表弁護士
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青山東京法律事務所 代表弁護士
1981年に東京大学法学部卒業後、東京銀行(現三菱東京UFJ銀行)に入行し、外国為替、融資業務等を経験。
その後、アメリカ ダートマス大学MBAコースへの留学を経て、世界の四大経営戦略コンサルティング会社の一角を占めるブーズ・アレン・アンド・ハミルトン(現PWCストラテジー)に入社し、大手金融機関や製薬メーカーに対する経営戦略コンサルティングを担当。
その後、転じた野村アセットマネジメントでは資産運用業務を経験し、投資信託協会でデリバティブ専門委員会委員長、リスク・マネジメント専門委員会委員長を歴任。
その後、世界有数のデータベース会社であるレクシスネクシス・ジャパン株式会社の社長となり、経営計画の立案・実行、人材のマネジメント、取引先の開拓を行った。弁護士になる直前まで、世界最大の企業再生コンサルティング会社であるアリックスパートナーズに勤務し、ライブドア、JAL等の再生案件、一部上場企業の粉飾決算事件等を担当した。
2010年弁護士登録を経て南青山M’s法律会計事務所に参画し、2014年6月独立して青山東京法律事務所を開設。
現在は、銀行員、コンサルタントと経営者として蓄積したビジネス経験をビジネスマンに伝授するため、社会人大学院である名古屋商科大学経営大学院(MBA)教授として企業再生論、経営戦略論を学生に講義するほか、数社の社外取締役、監査役を務めている。過去5年間に、経営、キャリア、法律分野で精力的に出版活動を展開している。
主な著書に「きれいに死んでいくための相続の話をしよう」(KADOKAWA)、共著に「マーケットドライビング戦略」(東洋経済新報社)「企業再生プロフェッショナル」(日本経済新聞出版社)など。
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連載きれいに死ぬための相続の話をしよう~残される家族が困らないために必要な準備