コロナ禍においては、学校の授業も従来の方法から変更を余儀なくされ、オンラインを導入するところが増えています。しかし、その学習効果を不安視する保護者は少なくありません。ハーバード大学、東京大学、開成高校のそれぞれで教鞭をとったベテラン教育者で、東京大学名誉教授・北鎌倉女子学園学園長の柳沢幸雄氏が、子どもたちの現状を伝えるとともに、不安を抱える親へアドバイスします。※本連載は、『「頭のいい子」の親がしている60のこと』(PHPエディターズ・グループ)より一部を抜粋・再編集したものです。

ICTを導入するも、授業数が大幅減となった教育現場

毎日対面授業があり、授業は1日6時間、休み時間や給食があり、部活動が盛ん。それが学校生活の完璧なあり方だとすれば、「ステイ・ホーム」の中での授業は、どうか。

 

環境が整っている場合はオンラインですが、それも6時間でなく半分の3時間、という学校が多かったと思います。そして、午後は午前中の授業の振り返りをし、演習のプリントをやって提出する、という流れでしょうか。

 

ICTの環境が整っていなければ、教師が苦心してプリントを郵送したり、自宅まで届けたりというところもありました。学校が始まってからも、クラスの半分は登校して、半分はステイ・ホーム。そうなると、時間にすると、これまでの半分しか授業がないことになります。

 

また、クラスの半分は午前に登校し、午後はオンライン、その間、残りの半分の生徒は午前がオンライン、午後が登校というやり方で、授業数を確保する学校もありましたが、それにしても、6時間対面授業をするよりも、学べる量は少ないでしょう。

 

(※画像はイメージです/PIXTA)
(※画像はイメージです/PIXTA)

 

しかし、それが以前の6時間対面授業より「劣っている」と考えないということ。対面授業の時間は半分になったけれど、その中でも確実に学べることはあるのです。たとえば、「オンライン授業なんて、リアルでないから伝わらない」と思っていても、実際にやってみると、意外にイケるのだ、と、教師・生徒ともども感じたのではないでしょうか。

 

子どもたちは、日常の中でYouTubeやオンラインゲームなどで動画に慣れています。先生がリアルではなく、動画で登場しても、ごく自然に受け入れられたと思います。そうであれば、今後、また感染の第2波、第3波が来て、休校になったとしても、この手段が使える。

 

リアルな授業とオンライン授業が選択できる状況は、「対面授業しか方法がない」と思っていた頃よりも、教育の提供手段が大きく広がった、というメリットがあるのです。新しい形での授業環境を整えるのは、教師にとって非常に大変なことでした。けれども、特に、これまでまったくICTの環境が整っていなかった学校にとっては、強制的にではありますが、新しい学習スタイル構築の大きな一歩になったと思います。

イラついても仕方がない、チャレンジの機会はまだある

「そんなことを言っても、受験は厳然とあるし、成績はつく。少しでも学べればいいじゃないか、と言われても、少ししか勉強しないのであれば、行きたい学校にも受からない」と言う人もいます。でも、それを言ってどうなるのでしょうか。教師は今できることの精一杯をやって、生徒はこの授業が与えられたとしか言いようがありません。

 

昭和44年、東京大学は入学試験がありませんでした。学生運動が広がりすぎたため、中止にしたのです。当時は非常に大きな問題として取り上げられました。しかし、今の社会にどんな影響があるかといえば、ほとんどありません。当時、東京大学を受験したかった人にとっては悲劇でしたが、それぞれに別の大学におさまって、立派に社会人となり、もう定年退職されている方々がほとんどでしょう。

 

今年度、受験を迎える子どもにとって、たしかに今年度のこの授業環境は過酷かもしれません。しかし、チャレンジはこのときが唯一ではありません。中学受験の勉強時間が足りなくて、万が一思い通りでなくても、高校受験もあるし、大学受験もある。人間到るところ青山(せいざん)あり。

 

今、この時期にイラついてもしかたがない。そういう時期なのだと腹を据えてほしいと思います。いや、イラついて不安になっているのは保護者だけかもしれません。意外に子どもは「しかたがないさ」と達観し、自然に受け入れているものです。

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