110歳までの生活にいくら必要か「見える化」してみる
金融庁が発表した「老後資金2000万円問題」以来、公的年金だけでは生活できないことが確実な現在、多くの人が不安を抱えています。けれども、20年後、40年後がどのような状況になっているかは、正直なところ誰にも分からないことです。
一つ言えるとしたら、大災害や戦争が起こらず、このまま科学技術や生産力が上がっていけば、なんとかなるのではないかと、私は楽観的に考えています。なぜかというと、日本を含めた世界の技術は進歩することはあっても、後退することはないからです。技術が上がれば生産力も上がり、食物やエネルギーなどさまざまなものが安く手に入るようになります。AI化も進んで自動化され、今以上に生活が便利で合理的になると思われます。
そうなれば、経済的に余裕が出てくるのではないでしょうか。歴史的にも私たちの生活は、時代とともに豊かになってきています。私の子ども時代は、エアコンが入っているのはデパートや銀行などの公共施設しかなかったので、夏になるとよくデパートへ涼みに行ったものです。それが、今ではどこの家庭にもエアコンがついているのが当たり前です。このように以前は贅沢品だったものが、現在は普通になっているなど、確実に私たちの生活レベルは上がっているのです。したがって、今後も生活水準は上がっていき、技術の進歩で物が安くなれば、なんとかなると思えるのです。
そうはいっても、110歳まで生きるとなると、死ぬギリギリまで働ける保証がない以上は計画的に暮らしていかなければなりません。
先日、60歳で定年を迎えた患者さんが来院しました。その方は退職金で高価な電化製品を買ったと話していました。年金がもらえるのは65歳からですから、それまでの5年間をどうするのか、散財して大丈夫なのかと看護師が訊ねると、本人は働くつもりだから大丈夫といいます。しかし、彼は病弱なため、いつまで働けるか分かりません。
このように、大金を手にすると、つい使ってしまうものです。長生きするためには、将来を見据えた生活設計が必要なことは言うまでもありません。そこで私は、110歳までの家計簿をつけています。80歳で収入がなくなるとして、毎月の収入がいくら、この年齢ではいくらの収入を得ようと仮定して、計画表を作成しているのです。資産をうまく分散し、かつ自分の稼ぎを構築していき、老後も自分の働きが直接お金になるようにする仕組みを考えています。
皆さんも、歳を取ったら働けないという考えをまず捨てましょう。決めつけたら、そこで終わってしまうので、長く働くことを考えながら計画を立てることが大切です。そのうえで、預貯金はいくらあり、退職金がここで入り、資産があればここで処分すれば合計でいくらになるとか、親の遺産がどれくらい入るなど、だいたいの資産を計算して「見える化」してみるとよいでしょう。
そうすれば、具体的な金額が算出でき、現在と同じレベルの生活を維持するには、いくら足りないのかも見えてきます。漠然とした不安を抱くのではなく、実際に自分の持っているお金を割り振っていき、いつ頃に尽きるのかをシミュレーションしてみることで明確になり、不安も解消すると思うのです。そのうえで、足りない分を補うために、どのような働き方をすればよいのかを考えてみることです。
ただ、親の介護で出費がかさんだり、自分や家族が思わぬ病気にかかることもあるので、あまり皮算用はせず、余裕を持たせた家計簿をつくるのがポイントです。