「シニア人材」が歩むキャリアとして、定年延長や再雇用という道もあります。しかし、通い慣れた職場というメリットはある一方、今まで部下だった人間が上司になるなど、モチベーションを低下させる要因が多いことも事実です。*本記事は、中原千明氏の著作『シニア人材という希望』から一部を抜粋し、再編集したものです。

定年後も「同じ職場に残り続ける」リスク

定年を迎えるにあたって、その先の人生をどう過ごすかを真剣に考えなければならない時期が誰にでも訪れます。

 

定年まで勤めた人には、65歳までという期限付きながら今までの会社で定年延長や再雇用されるという道があります。一方で、それまでの会社を辞め、新天地を求めて転職するという方法もあるでしょう。

 

もちろん、定年後は仕事をしないという選択肢もありますが、人生の終盤10〜20年という時間を何もせずに過ごすのは経済的にもやりがいという意味からも厳しいのではないかと思います。

 

定年延長や再雇用で、同じ会社に残って仕事を続ける場合は、就職活動をする必要がなく、採用されないという心配もありません。報酬面もある程度は見通しを立てることができます。長年通ってきた職場ですから、新しい場所に慣れるためのストレスもないでしょう。

 

その半面、今まで部下だった人が上司になるなど、仕事がやりにくいと感じたり、我慢しなければならなかったりする場面が出てきます。職責を解かれて仕事は楽になった分、充実感も減ってモチベーションが下がります。周囲の態度も変わり、「歳をとった」と実感する人も多いでしょう。

 

なかには、定年の際に、「これからも職場に来てアドバイスをしてください」と皆から言われたのを真に受け、毎日のように職場に顔を出す人もいるという話を聞いたことがあります。職場の人たちはいわゆる社交辞令として言っただけだと思いますが、本人は「自分はまだ現場から求められているんだ」と解釈してしまったのです。

 

職場の人たちはどう接したらいいのか困り、だんだん敬遠するようになったのを見かねて、友人が「周りは迷惑をしているのだから、もう職場には来ないほうがいい」と諭したといいます。この方の場合、立つ鳥跡を濁してしまったので、引き際として美しくないでしょう。やはり、定年で一区切りをつけてそこから去るのが、引き際として理想的なのです。

 

定年後も毎日のように顔を出すように… (画像はイメージです/PIXTA)
定年後も毎日のように顔を出すように…
(画像はイメージです/PIXTA)

シニア人材は「新天地」を求めたほうが良い

この意味からも私は、シニア人材は新天地を求めたほうがいいと考えています。新しい職場を求めて転職すれば、60歳を過ぎても新たな発見があります。

 

たとえば銀行員は製造業のことを知らないし、法律ひとつとっても分からないことだらけです。私自身、いまだに「なんでこんなに世の中のことを知らないんだろう」と思うことばかりで、毎日勉強です。そういう生活を送っているほうが、刺激的で充実感も得られます。

 

ただし、自分に合う職場を見つけるには、努力が必要です。ふさわしい職場が見つからない、または採用されないかもしれないというリスクもあります。ハローワークに通っても、なかなかいい条件の職場は見つからないでしょう。

 

だから、定年前からあちこちにネットワークを築いておいて、「定年後はあなたのところで働けないだろうか」と打診しておくのが賢明です。私自身、知人からの紹介で社員を採用することが多く、紹介がいちばん安全な採用方法のように思います。

会社が求めるのは、即戦力になる意欲的な人材

会社としては、経験や知識が豊富で即戦力になる、意欲的な人材を求めます。私の会社は、それが理由でシニア人材を多く採用しているのです。

 

働く人の側も「今までは」「前の会社では」と過去のことを引きずるより、潔く新しい場所を求めて心機一転で始めるほうが出会いや経験のチャンスが増えます。今まで以上に世界が広がって、いきいきと毎日を過ごせるようになるでしょう。

 

そのためには、変化に対応するエネルギーが必要です。同じことを繰り返すだけならエネルギーはあまり必要ではありませんが、常に変化する環境では負荷が大きくなります。

環境の変化は「人生の充実」につながる

しかし、安定だけを求めて退屈な人生を送るのはもったいないという気がします。

 

端から見ていると「新しい場所へ移れば、もっと高く評価されて、満足感も得られるのに」と思う人が実際には大勢います。おそらく、「自分はこの仕事しかできない」という思い込みや先入観が、変化を阻んでいるのではないかと思います。

 

毎日、会社の行きも帰りも同じ道を通る人は多いでしょう。私は現役のとき(この言葉をあまり使いたくありませんが)から、たった7分間の駅までの道でも「今日は、この道を通ってみよう」とルートを変え、新しいお店を発見したり、景色のいい場所を見つけたりして小さな発見や喜びを得ていました。

 

私は刺激や変化が好きなので、新しいこと、新しい人は大歓迎です。

 

自分の人生をどこまで楽しく充実させることができるのかは、自分次第です。60歳を過ぎてから新しいことにチャレンジするのは、相当勇気もいりますし、体力や気力も必要になります。それでも、新しい仕事をできるようになったときには、若いときに仕事を習得したとき以上の喜びが得られると思います。

 

世間から前期・後期高齢者と呼ばれようがシルバー人材と呼ばれようが、世間が勝手につけたレッテルですから、気にする必要はありません。

 

人生の残りの時間と預金通帳の残高が釣り合うように睨んでいても、予定通りにはいかないことのほうが多いはずです。それなら、常に新しい刺激を求めて人生を楽しんでこそ、豊かな後半生が送れるのではないでしょうか。

 

年齢とともに心身のエネルギーが減ってしまうのは否定できませんが、日々のトレーニングによって補うことができることも間違いありません。

 

気力も筋肉と同じように鍛えれば強くなります。変化に対応するトレーニングを続けていれば、歳をとっても新しい環境に対応することは十分可能ですから、決して諦めないでほしいと思います。

 

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    本連載は、2017年5月29日刊行の書籍『シニア人材という希望』から抜粋したものです。その後の税制改正等、最新の内容には対応していない可能性もございますので、あらかじめご了承ください。

    シニア人材という希望

    シニア人材という希望

    中原 千明

    幻冬舎メディアコンサルティング

    超高齢社会の到来とともに、日本人の働き方は大きく変わる――。 都市銀行でマネジメント職を歴任。定年後に起業し、多数のシニア人材を雇用する経営者が語る“新しい労働の在り方"とは? 2013年4月1日、高年齢者雇用安定…

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