超長寿医学の研究は難しい…まさに今、始まったばかり
超高齢社会に突入した日本において、超長寿医学の研究は必要不可欠です。ところが実際には研究が困難なため、問題が山積しているのが現状です。しかし、現代の医学の課題は、年代で区切ると小児の領域、膠原病や若年性糖尿病などの難病が重症化しやすい壮年の領域、そして生活習慣病を発症する中年の領域が、主な研究対象となっています。これを死亡率からグラフ化して見てみると、ちょうど平均寿命と合致します。
したがって、中壮年期からいかに生活習慣病を管理・予防するかが課題となり、それが目指しているのは平均寿命の延長と健康寿命の延長であって、必ずしもその先にある超長寿への見通しがあるわけではないのです。
私の目標は110歳まで生きることなので、まさに超長寿を目指すための医学が課題となります。ところが、中壮年期の課題に対する研究と混同されてしまい、超長寿医学の研究だけを対象とすることは難しいのです。超長寿医学の研究をするには、高齢者、特に後期高齢者(75歳以上)を代表するような集団を作ってランダム化比較試験(RCT)という医学的な研究をする必要があります。しかし、基礎疾患や合併症、患者さんの背景があまりにも多様過ぎるために、比較試験が困難なのです。
こうした理由から研究が遅れています。そこで、超長寿に寄与する因子を研究しようとすると、極めて限られた同様の背景を持つ少数集団での研究結果を得ることから始めるしかありません。超長寿医学の研究には、このような課題があるのです。
110歳まで生きることを現実にするには、生活習慣病の管理を超えたところにある老化そのものにかかわる老化遺伝子の総合的な解析、動脈硬化に関しては血管老化制御因子の解明、がん予防に関しては細胞の老化からがんへの転換にかかわる代謝系変化の解明など、基礎医学の研究の進展に期待するしかありません。
そんななか、少しずつですが研究が進んできており、まだ途中の段階ですが興味深い研究結果が報告されています。85歳以上の超高齢者1500人を対象に、さまざまなバイオマーカー、生活習慣などを調べたところ、一つだけ彼らに有意なことが検出されたのです。それは、炎症反応(CRP)が低いことでした。
CRPは、肝臓で合成される物質で、体のどこかに火事場、すなわち炎症があると合成されるため、リウマチや肺炎などがあると数値が高くなります。したがって、CRPが高いと火事場を消火するために免疫が働いているので、活性酸素が多く発生していることを意味します。逆に、CRPが低ければ火事場がないので活性酸素も少なく、臓器が老化しないともいえるのです。理由はまだ解明されていませんが、超高齢者には共通してCRPが低く、それが長生きにつながっていると考えられています。
これまでは活性酸素の量を簡単に調べることができなかったため、炎症の指標であるCRPを測定していました。しかし現在は、活性酸素の量も測れるようになったので、多く検出された人は炎症反応が高い、つまり老化が進んでいると考えられます。
老化を予防するには、抗酸化作用のある食品やサプリメントを摂ったり、火事場があれば治療によって炎症を抑えたりしなければなりません。こうした対策を一つひとつ取らなければ、平均寿命で終わることとなり、病気があってもきちんと治療を受けたり、コントロールして悪化させたりしない人が、健康寿命を延ばして110歳まで生きることができるのです。
永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医
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