生前に、相続税を十分に支払える贈与をしたにもかかわらず、相続人が贈与された金銭を使い込んでしまう場合もあります。今回は、そのような事態を防ぐための生前贈与の留意点を中心に見ていきます。

親の意図に反して贈与された金銭を使い込む場合も

相続税対策で生前に贈与することは場合によっては、マイナスの効果をもたらすことがあるので、注意が必要です。

 

例えば、あるケースでは、父親が相続対策として10年間にわたって長男、次男の2人に年350万円を贈与していました。予定としては、6480万円の贈与額になる予定でした(324万円〈税引後〉×10年=3240万円の2人分)。これだけの資金があれば、相続の際に相続税を十分に支払うことが可能でした。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

しかし、相続開始後、長男、次男の手元に残っていたのは、それぞれわずか1000万円だけでした。残りのお金は、子供の教育費や、交際費(私立学校に入れていたために親同士のつきあいに出費がかさんでいました)などに費やされてしまったのです。

 

結局、長男、次男は相続した土地を売却して、どうにか納税資金を確保しました。

 

このように「相続税対策のために贈与した」つもりでいても、子供がそのような親の意図に反して贈与された金銭を使い込んでしまうことは十分にあり得ます。もし、そのような事態を防ぎたいのであれば、贈与する金額を最低限の額に抑えることを検討する必要もあるかもしれません。

税率が6段階から8段階へと変更になった相続税

近年、贈与や譲渡に関する相談業務が一気に増加しています。具体的には、現金、有価証券、特に同族会社の株式などですが、とりわけ多くなっているのは土地、建物などの不動産に関する相談です。

 

その背景としては、2015年に相続税が改正されたことがあります。そこで、相続税改正のポイントや注意点についても簡単に触れておきましょう。

 

まず、改正前と改正後の相続税の税率等を比較しておきます。[図表]のように、6段階だった税率が改正後では8段階になり、さらに最高税率も50%から55%にアップしています。

 

【改正前と改正後の税率等比較】

さらに、改正後は、基礎控除が減額されました。その結果、法定相続人が3人の場合、現行では8000万円だった基礎控除額が4800万円に下がってしまったのです。

 

こうした改正の結果、支払わなければならない相続税の額に具体的にどのような違いがもたらされたのか、相続財産が1億円のケースと8000万円のケースを例に、相続人の配偶者A、子供2人(B、C)が、それぞれ法定相続割合で相続した場合を検討してみましょう。

 

【相続財産が1億円のケース】
改正前 基礎控除 8000万円 相続税総額 200万円(税率10%)
配偶者Aが相続した財産 2分の1 5000万円 配偶者税額軽減により相続税 0円
子供Bが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 50万円
子供Cが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 50万円
計(100万円)
※子供の相続税 相続税総額200万円×4分の1=50万円

 

改正後 基礎控除 4800万円 相続税総額 630万円(税率10%)
配偶者Aが相続した財産 2分の1 5000万円 配偶者税額軽減により相続税 0円
子供Bが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 157万5000円
子供Cが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 157万5000円
計(315万円)
※子供の相続税 相続税総額630万円×4分の1=157万5000円

 

【相続財産が8000万円のケース】
改正前 基礎控除 8000万円 相続税総額 0円

配偶者Aが相続した財産 2分の1 4000万円 相続税 0円
子供Bが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 0円
子供Cが相続した財産  4分の1 2500万円 相続税 0円

 

改正後 基礎控除 4800万円 相続税総額 350万円(税率10%)

配偶者Aが相続した財産 2分の1 4000万円 配偶者税額軽減により相続税 0円
子供Bが相続した財産  4分の1 2000万円 相続税 87 万5000円
子供Cが相続した財産  4分の1 2000万円 相続税 87万5000円
計(175万円)

 

このように相続財産が1億円のケースでは、相続税総額は430万円も増えてしまいますし、8000万円のケースでは相続税が現行では全くかからなかったのに、改正後は350万円も課されたのです。相続人の立場からすればまさに、雲泥の差といってよいでしょう。

 

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