
いつの時代もなくならない相続トラブル。「生前しっかり話し合ったから大丈夫」…ではないのです。大切な人の死後、まさかの事態が起きてしまったら? 相続終活専門協会代表理事・江幡吉昭氏が実際の事例をもとに解説します。今回は、生前における遺留分の放棄について。 ※本連載は遺言相続.com掲載の事例を編集したものです。プライバシーに配慮し、相談内容と変えている部分があります。
母の遺産を長女が拒否。どうやら過去に事件が…
【ケース】父(享年82歳)・母(77歳)・長男(56歳)・長女(50歳)/東京都在住
「母さんが亡くなったとき、私は何もいらない」
母にそう告げたのは、長女で専業主婦のB子さん。
父の相続が終わったところで、B子さんは家族の前で宣言しました。ずいぶん無欲な長女のようにも思えますが、母と長男の関係を目の当たりにし、もう家族とは関わりたくないと思ったようです。
「もう…お金で家族がもめるのはこりごりです。母にも兄にもガッカリしています」
一体彼女に何があったのでしょうか。
■長男と母親の信じられない行動
話は2年前に遡ります。病が発覚したB子さんの父は、治療もさることながら相続の問題が気にかかっていました。個人事業主として小さな成功を収めている父。お金をめぐって家族がバラバラになってしまうことだけは避けたいと考えていました。まずは自分の財産を把握しようと思い、通帳を探します。
ところが。
(あれ…? あの通帳どこいった…?)
探せど探せどひとつの通帳が見当たりません。それは、万が一の事態が起きたときのために、と結婚当初から父と母がコツコツ貯めていたものでした。「本当に困ったときはこれを使いなさい」とB子さんも長男も、成人したあとに通帳の存在を知らされていました。

疑問に思った父は、ちょうど実家を訪ねていたB子さんに聞きました。
「なぁB子、戸棚に入れていた通帳知らないか。〇銀行の。大事なお金がはいってるやつ」
「父さんと母さんが話してくれた、あの通帳? 全然知らない。ちゃんと探したの?」
B子さんも確認しましたが、やっぱり見当たりません。家中の戸棚をくまなく探しても、まるで最初から存在しなかったかのように、その通帳だけが姿を消しています。