認知症、胃瘻、寝たきり…「明日はわが身」の恐怖
昼食後、ホーム長による事情聴取が行なわれました。Oさんは、自分の取った軽はずみな行動に対し、反省をしています。しかし、ホームに対し、ひどい認知症の入居者と一緒には生活をしたくないという要望も出しました。しかし、ホームからの回答は、「要望には応えることができない」というものでした。
多くの老人ホームでは、認知症の入居者と自立の入居者とが混在しています。
余談ですが、介護付き有料老人ホームの場合、制度上、介護専用型と混在型とがあり、介護専用型とは要介護認定を受けている高齢者以外の入居はできません。混在型の場合は、自立の高齢者と要介護認定を受けた高齢者が混在することは可能です。つまり、重症な高齢者は専用型へ、そうでない高齢者は混在型へという区分が、何となくあるということです。さらに、同じホーム内でも2階は認知症専用フロア、3階は自立専用フロアとフロア分けをして、入居者を区分をしているホームもたくさんあります。
しかし、現実的には、入居者である高齢者は、日に日に悪くなっていくため、当初は棲み分けができていても、徐々に入居者の状態が悪くなり、やがて自立フロアが認知症高齢者で溢れかえってしまうということを避けることができません。つまり、どのような区分をしても、やがては自立と要介護は混在してしまうということになります。
老人ホームに入居している高齢者の中には、認知症や胃瘻、全介助で寝たきりの入居者を近くで見ることにより、「明日はわが身」と、あらためて自身の老いに対し備えようとする人も多くいます。しかしそれと同じくらい、そのような醜態や惨めな姿を見たくないという感覚を持っている高齢者も存在します。Oさんの場合も、数年後に自分がこのような認知症を発症してしまうのではないかという恐怖心が芽生え、心の動揺が「水掛け」として表われてしまいました。自分が彼女のようになっていくことを考えたくないOさんが衝動的に水を掛けてBさんの存在自体を消そうとしたのではないでしょうか。
その日の夕食事、Oさんは、Bさんのところまできて謝罪をしました。右手を出して握手を求め、Bさんは何もわからないまま右手を出しました。「おばあちゃん。すまなかったね」とOさんが言うと、「どうしたの? 私は食事をしていいんでしょ」とまったく状況を理解することができずにいるBさんでした。
小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役
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