どうやって老人ホームを選んだらいいのか? それには入居者の生の声を聞くのが一番と、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者は断言します。そこで著者は、数々の入居者のエピソードを通して、ホームでの暮らしの悲喜こもごもを紹介。現在、国内最大の老人ホーム紹介センターを経営する著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『老人ホーム リアルな暮らし』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

テレビ番組「意地悪ばあさん」にそっくりな入居者

■エピソード6
ご主人は下町のエジソン。筋の通らないことが大嫌い

 

私が新人介護職員だった時、83歳の女性入居者Nさんの話です。彼女は3年前にご主人を亡くし、老人ホームに入居しました。肺に持病を持っており、常時酸素吸入をしなければならず、気管を切開しカニューレが入っているので、定期的に吸入し気管の掃除が必要でした。それ以外は、いたって健常。頭脳明晰、口は達者で、気に入らないことがあると誰かれかまわず平気で文句を言います。失礼を承知で言えば、昔ヒットした青島幸男のテレビ番組「意地悪ばあさん」の主人公にそっくりです。

 

頭脳明晰、口も達者だった83歳の女性入居者との最期の会話とは。(※写真はイメージです/PIXTA)
頭脳明晰、口も達者だった83歳の女性入居者との最期の会話とは。(※写真はイメージです/PIXTA)

 

今から50年以上前、亡くなったご主人と二人三脚で東京の下町で工場を起こしました。高度経済成長の波に乗り、名だたる大企業の下請けとして工場は成長を続け、今では社員数300人を超える大企業です。さらに、努力家のご主人は、関係者から「下町のエジソン」と呼ばれるアイデアマンだったと言います。多くの特許を取得し、誰もが知る有名大企業もご主人の特許なしには成り立たないほどです。

 

また、ホーム長の話によると、Nさんは子供たちに、いっさい何も相談せずに老人ホームへの入居を決めてしまったそうです。契約には身元引受人が必要なので、長男が引受人になることで落ち着きましたが、老人ホームに入居するということ自体が寝耳に水だったようで、契約当日は、関係者の面前で大喧嘩を繰り広げ、全員で二人をなだめたと言います。

 

「まったく、うちの嫁は、躾がなっていない。息子はあんな嫁のどこが良くて一緒になったのやら」と、電話の後でいつものように長男の嫁の悪口が始まります。どうやら、長男の嫁に何かを指示したらしいのですが、上手く伝わらなかったようです。ちなみに、長男はご主人が亡くなる4年前に、後継者として社長に就任、事実上会社を切り盛りしていたといいます。

 

 

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