レストラン経営を成功させた働き者の夫婦。夫に先立たれた妻ですが、店を長男に継がせ悠々自適の毎日です。あるとき、自分が「なんとなくイメージしていた」3人の子どもたちへの遺産分割の内容が、あまりにも不公平なことに気づき、愕然。対策を立てようとしますが、価値の高い不動産がかえって遺産分割のハードルを上げることに…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
これまで健康だったこともあり、自身の相続のことについてあまり深く考えてきませんでした。なんとなく、店を経営してくれている長男に自宅兼賃貸アパートも相続させ、お店の経営と合わせうまくやってもらえれば、お店を手伝っている長女のためにもいいのではないか…といった程度のものでした。
しかし、70代も半ばに差し掛かかり、相続についてしっかり考えなければと思うようになりました。そこで、実際に子どもたちに渡る資産について改めて考えてみたところ、長男には店と賃貸付きの自宅、次男が若い頃には事業への資金援助をしており、残った金融資産を3等分すると、いつも頼りにしている長女にはあまりにも不平等ではないかと不安になりました。そのため、できれば長女にしっかりと遺産を渡さなければ、という気持ちに駆り立てられ、筆者の事務所を訪れたとのことでした。
長女が受取人の生命保険に、急ぎ加入したが…
不安を覚えた加藤さんは、まず長女を受取人とした生命保険に加入したといいます。とりあえず保険金だけは長女に渡せるよう準備したほか、自分の亡きあとには自宅兼賃貸アパートを売却し、きょうだいで3等分してもらおうと考え、それらをしたためた遺言を作成したいと希望されました。
両親の仕事を引き継いだ長男が、レストランの土地と建物を相続することについては、夫が生前のころから長女と次男に話して聞かせており、2人とも異論はないとのことです。
後日、自宅兼アパートを売却して3等分にする、という加藤さんの考えを承知したうえで、長女同席による打ち合わせを行いました。筆者は、事前に預かっていた資料から相続税額を計算してお待ちしていましたが、2億7000万円の試算結果を見せると、加藤さん親子は「こんなに払うの!?」と、大変なショックを受けてしまいました。
資産状況からすると、支払うことはできそうな金額なのですが、そのために自宅兼マンションを手放すのは、もったいない状況になりそうです。
相続資産は、レストランと自宅兼賃貸マンションという不動産2つ、1億円を上回る金融資産です。分けにくい不動産はとりあえず売って3等分に…と考えがちですが、今回の場合、もっと工夫の余地があると思われます。
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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