兄は堅実なサラリーマン生活を送り、定年退職。弟は人間関係に躓いて以降、母親の収入を頼りに引きこもり生活。弟は、90代となった母親の年金と預貯金を握って離さないうえ、遺言書まで書かせており、母親自身もなすすべがない状態です。将来を心配する兄が資産状況を尋ねても、両者からはスルーされ続け…。どうしたらいいのでしょうか。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
自宅の土地建物の半分は、すでに弟のものになり…
今回の相談者は、会社を定年退職してリタイア生活を送る60代の永井さんです。相談内容は、高齢となった母親の相続問題と、家族関係にまつわる不安についてでした。
永井さんの母親は90歳ですが、意思判断能力もしっかりしていてお元気です。現在は埼玉県にある実家で、60代半ばとなった永井さんの弟と同居しています。ただ、弟には問題があるといいます。弟は専門学校を卒業後、地元の中小企業に勤務していたのですが、40歳になったばかりの頃、新しい配属先でトラブルがあり、それが原因で人間関係がこじれて退職に追い込まれてしまいました。それ以来、結婚予定だった女性とも別れ、その後は社会に出ることなく、ずっと自室に引きこもっているのです。母親ともほとんど口をききません。
父親は15年前に他界しましたが、その際に、実家の土地・建物ともに母親2分の1、弟2分の1の持ち分で名義を書き換えています。預貯金はすべて母親が相続しました。永井さんの相続分はありません。
父親は大手企業勤めで、給料も年金もかなり高額でした。また、引きこもりとなった息子を心配していたため、生活費を倹約するなどしてかなりの預貯金も残したようです。自宅は古いものの、きちんとメンテナンスをしており、暮らすのに不安はありません。父親の遺産と母親の年金や金融資産で、ふたりは問題なく暮らしているようです。
永井さんが心配しているのは、母親の預貯金のことです。弟は父が亡くなって以降、母親名義の預貯金を半ば強引に預かっているばかりか、母親に遺言書を書かせてるというのです。
●相続人関係図
被相続人 :母親・90代(配偶者は故人)
相続人 :長男(相談者)、次男
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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