レストラン経営を成功させた働き者の夫婦。夫に先立たれた妻ですが、店を長男に継がせ悠々自適の毎日です。あるとき、自分が「なんとなくイメージしていた」3人の子どもたちへの遺産分割の内容が、あまりにも不公平なことに気づき、愕然。対策を立てようとしますが、価値の高い不動産がかえって遺産分割のハードルを上げることに…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
築浅の自宅兼賃貸マンション、手放すのはもったいない
まず、自宅を兼ねた賃貸マンションは満室稼働中であり、まだ築年数もそれほどではないため大きな修繕も必要なく、建て替えを検討するのは当分先になりそうです。日々の収支はすばらしいのですが、相続の観点からすると、分けにくいものとなっています。
そして加藤さんは、住み慣れた現在の自宅をとても気に入っており、売却は口にするものの、手放すのは本意ではないようで、対策に伴う住み替えには前向きになれない様子が見て取れます。
筆者は、日々の生活に必要な収入は安定的かつ潤沢にあるため、現在保有している金融資産で収益物件を購入し、3人の子どもに分けやすい形にすることを提案しました。その後、自宅兼賃貸アパートの売却が検討できるようになったら、資産組み替えを全体で検討し、3人の子どもに賃料収入が入るようにすることもできます。
「主人は庶民的な小さいレストランから商売をはじめて、最後は都心部のお洒落な店へと育てましたが、本人は大変な倹約化で、なにも贅沢をしませんでした。子どもたちに財産を残せるのはうれしいですが、まさかこんな分けにくいなんて…」
「相続税の金額も、覚悟はしていましたが驚きでした。なにも対策をしなければ、きっと、あれこれ手放すことになってしまったと思います」
基本的な方向性を固めて母親の考えをしっかり伝えておき、公正証書遺言を残しておけば、万一のときも慌てることもなく、子どもたちは不安を抱えずにすむでしょう。きょうだい仲が円満なのも幸いです。加藤さんが元気なうちに、遺言作成をしておくことが大切です。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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