制度に振り回されている特養の悲劇
特別養護老人ホーム(以下「特養」)とは、高齢者に対するセーフティーネットである。何度も言いますが、これが私の特養に対する解釈です。平たく言えば、低額所得者や生活保護世帯の要介護状態の高齢者が、身体の状態が悪くなり自宅での生活に無理が生じた場合、最後に駆け込める施設が特養ということになります。
おそらく、数年前までは、この解釈でよかったと思います。
最近、「ユニットケア」というキーワードを聞いたことはないでしょうか?現在、新しく開設している特養の多くは、この「ユニットケア方式」の特養です。従来の特養について簡単に説明をしておきます。特養とは、元来、病院と同じ多床室で構成されています。
つまり、大きな部屋にベッドが4つ程度配置され、ベッドの周りにカーテンが張られている、病室と同じイメージです。当然トイレは部屋の中にはなく、廊下に共同トイレが設置されています。
食事や入浴は、建物内に配置されている大食堂や大浴室で、全員が同じ時間に集合して食べたり、曜日を決めて集団生活の中で一度に複数の入居者が入浴を行ないます。だからこそ、運営コストも安く抑えることができ、その結果、利用料金も安価に設定できるのです。このような低コスト運営が、多くの高齢者、特に所得の少ない高齢者が安心して入居することができる、特養の基本スキームだったのです。
つまり、けっして贅沢な暮らしはできないけれど、低所得の高齢者でも安心して入居することができる老人ホーム、という位置づけでした。
しかし、ユニットケアの場合、まるで真逆な現象が起きてしまっています。ユニットケアとは、老人ホーム内を10人程度の小ユニットに細分化し、ユニットごとに介護支援サービスを提供する方式のことを言います。当然、全室個室でありホームによっては、居室内に洗面所やトイレも完備されています。
たとえば100室の特養であれば、100室の個室が存在し、さらに10個のユニットがグループ化され、このユニットごとに食堂や浴室などを配置し、ユニット内ですべてを完結できるという介護方式になっています。
当然、10人という小さなグループごとに専属の介護職員が配置され、介護支援を受けることになるので、毎日決まった介護職員から個別事情に合わせた手厚い介護サービスを受けられます。Aさんはいつも朝寝坊なので、朝食は8時ではなく10時に食べますとか、Bさんは今まで夜入浴をしていたので、夕方の6時に入浴します。というような個別の介護支援が"売り"になるのです。
手厚い介護支援サービスが"できる"ということは、言い換えれば、多くの職員が必要になるということです。そして、その結果として運営費用が多くかかり、その運営費用は利用者が負担することを意味するのです。