人手不足があってはならないのが介護業界
介護保険制度がどんな背景で成立したのかご存じですか。高齢社会を迎え、介護の必要な高齢者が増えてくるので、それに対応するために決まっているじゃないか、という声が聞こえてきます。
しかし、私はそうは思っていません。高齢社会になって医療の一歩手前の高齢者が増えたので介護保険制度が整備されたのではありません。
介護保険制度の整備の目的は、実はこうなのです。
バブル経済が崩壊し社会構造が大きく変化していく中、多くの企業で人が不要になり、職を失うことが決定的になった時に、この制度は整備されました。つまり、会社からオーバーフローしてしまった会社員の再就職先として新産業を創設しなければならなかったのです。その新産業として白羽の矢が立ったのが介護業界だと認識しています。
私が、現場で介護職員として働いていた時、毎月のように介護職員や施設長候補者という方々が入社してきましたが、その多くは、キャリアコンサルタントと称する転職事業者の紹介による再就職組でした。大手銀行や生保損保などの金融機関を早期退職した方、大手建設会社、誰もが知っている製造業の営業マン、工場や研究所で働いていた技術者など、本当に多種多様な方々が、介護職員や介護事業者の管理職として転職してきました。
それが、いつのころからか介護業界は人手不足という想定外のことが起こり、今日に至っているのです。つまり、失業者対策のために創造した介護業界が、人手不足に陥っているという、なんとも皮肉な状態になっているのです。
私見では、介護業界の人手不足はいずれ解消していきます。それは、外国人労働者が増えるからではありません。業界規模が適正な大きさに変化していくと考えるからです。もちろん、AIやIoTを活用して、今まで人手がかかっていた業務に対し人手が不要になっていくということもありますが、一番の理由は、面倒を見られる規模に収斂されていく、ということです。介護保険業界の規模が介護職員の数に合わせ小さくなり、その代わり介護保険を利用しない介護事業、つまりは、全額自己負担の介護サービス業界が大きくなると考えています。医療にたとえると、保険診療ではなく自由診療、ということになるのだと思います。