多くの介護職員は対人関係が苦手
介護職員にコミュニケーション能力を求めるべきではないと書くと、なぜ?という疑問を持つ読者は多いと思います。それは、介護職員には必ずコミュニケーション能力があると思っているからだと思います。しかし、現実は少し違います。
コミュニケーション能力の高い人とは、一般的には次のような人ではないでしょうか。常に明るく、誰とでも仲良くなれ、臨機応変に対応を変えることができる。さらに、自分の良いところを理解し、それを上手に表現することで商談などを優位に進めることができる人。そのような人の場合は、多くの職種で活躍が可能なので、わざわざ介護職員として働く必要はありません。
最近は新卒の介護職員も多くなりましたが、まだまだ歴史が浅い介護業界の場合、老人ホームで働く介護職員は、圧倒的に他の業界からの転職組になります。転職組の介護職員の場合、前職はさまざまですが、共通していることは、何らかの理由でリストラを余儀なくされた人材です。リストラと言うと、会社を首になったと理解する方も多いでしょうが、どちらかと言うと、自ら辞めてきた人のほうが多いと思います。
今でこそ、介護人材は極度の人手不足として有名ですが、つい数年前までは、多くの企業のリストラの受け皿という側面があったのは紛れもない事実だと思います。多くの介護職員の前職を確認すると「ノルマの厳しい営業マンでいることに疲れた」とか「製造現場の張りつめたストレスの中での仕事に疲れた」という声が多いのです。そして、その疲れた身体を癒すために介護職員になったという人が多い、と私は感じています。もっと自分らしい仕事がしたいとか、人から感謝される仕事がしたいという衝動に駆られて介護職員になったという人も多いでしょう。
私の周りにいた介護職員には、いわゆる「オタク」と言われている人たちが多くいた、と記憶しています。一つのことに対し、飛びぬけて能力が高い代わりに、多くのことについてはまったく無頓着な人たちでした。これらの多くの人たちは、総じて対人関係を上手に作ることが苦手な人たちだったと記憶しています。その代わり、困った行動をとる認知症の高齢者にも、丹念に気長に対応することができ、また、入居者のとる非常識な行動に対しても寛容で、許す気持ちが強い人たちでした。
つまり、多くの介護職員は、対人関係を上手く作ることは苦手なのです。コミュニケーション能力が低い人が多いと考えたほうがいいと思います。その分、正直で嘘がつけない人たちではないか、と考えています。