いい老人ホームだと近所で評判だったのに、入居したら酷い目に遭った――。老人ホーム選びでは口コミがまるで頼りにならないのはなぜか。それは、そのホームに合うか合わないかは人によって全く違うから。複数の施設で介護の仕事をし、現在は日本最大級の老人ホーム紹介センター「みんかい」を運営する著者は、老人ホームのすべてを知る第一人者。その著者が、実は知らない老人ホームの真実を明らかにします。本連載は小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)の抜粋原稿です。

女性職員は気が強く、男性職員は気が弱い

不思議なもので、多くの女性介護職員は総じて気が強く、ズケズケものを言う人が多いと私は感じています。今の時代、どの業界もそうかもしれませんが、介護業界は、特に気が強くしっかりしている女性が多い業界です。気の強い女性職員であっても対人関係を作ることは苦手な場合が多く、やはりコミュニケーション能力は高いとは言えません。

 

小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)
小嶋勝利著『誰も書かなかった老人ホーム』(祥伝社新書)

介護業界では、圧倒的に大人しい男性職員が目立ちます。ただでさえ数が少ない上に、大人しいということになると存在感は無くなります。人間は、けっして悪い人ではないのだけれど、うじうじ、なよなよしている気弱な男性というイメージがどうしても強くなってしまいます。

 

当たり前の話ですが老人ホームの職員にとっては、入居者は多くの人の中の一人です。特に、老人ホームの介護は集団介護という介護運営形態なので、介護職員と入居者とが1対1ではなく、5対1、10対1ということになります。したがって、個別に対応することは、どうしても限界があります。極力個別対応をすべきだということは言うまでもありませんが、介護職員と入居者が1対1でない以上、すべてを個別対応とすることは不可能です。

 

逆に、入居者のご家族からすると、自分にとっては唯一無二の存在である入居者に対しては、特別な配慮をしてほしいと思うものではないでしょうか。ご家族から、老人ホームの既存サービスには無いサービスを要望されるケースがあります。

 

たとえば、どうしてもA病院に受診したいので、毎月1回車で連れて行ってほしいとか、今まで毎日入浴していたので、老人ホームでも毎日入れてほしいとか、毎度の食事には必ずBメーカーのCを出してほしいとか。どの老人ホームも極力要望には応える方向で調整をするのですが、どうしてもご期待に応えることができない場合もあります。さらに、その要望に対し、十分な費用負担を申し出る家族や、ホーム側の申し出に対し、気持ちよく負担に応じる家族も多くいます。

 

しかし、ほとんどの場合は、期待に応えることができない場合が多いのです。全体の最適を追求しなければならない老人ホームの場合、部分最適の追求はどうしても苦手な分野になるからです。

 

老人ホームの場合、職員の配置人数によりできること、できないことが発生します。入居者や家族からのリクエストが整理できて、それに対処するためには、介護職員を多めに配置すれば解決をするのであれば、費用はともかく、現実に介護職員を0.36人増やすといった話になります。当然、0.35人ということは不可能で、0人でなければ1人かということになります。

 

1人を増やす場合、介護費の負担をお願いするのですが、費用対効果で考えた場合、得策ではないということになり、結果、どちらかが我慢をするということで落ち着きます。前に紹介した特定の病院に対する受診同行などの場合、多くは自費にて他の介護事業所の介護職員をその時だけ雇い、利用することで対応しているのが現状です。

 

小嶋 勝利
株式会社ASFON TRUST NETWORK 常務取締役

誰も書かなかった老人ホーム

誰も書かなかった老人ホーム

小嶋 勝利

祥伝社新書

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老人ホーム リアルな暮らし

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