4人きょうだいの遺産分割…長男は「放棄する」と
介護施設に入所してから数年後、高齢の母親は静かに旅立っていきました。遺言書を残していなかったため、相続については4人の子どもたちで話し合いをする必要があります。
「僕は相続を放棄するよ。お母さんには家を建てるときにお金をもらっているから、それで十分だ。両親の老後もほとんど看ていないし、これ以上何ももらわなくてかまわない」
長男からは、家を建てるときに母親から贈与をしてもらったということで、今回の相続分はなしでいいという申し出がありました。遺産分割協議が決まれば、相続する財産はないという書類に印を押すということで、すでに話がついています。
母親の財産は、兄弟姉妹も暮らしていた古い自宅と預貯金のみです。自宅は土地が15坪程度と狭く、建物も老朽化しており、ところどころゆがみも出ています。室内には書籍や衣類などの荷物がぎっしり詰まっているため、片付け費用もかかってしまいそうです。
母親の面倒を看た次男の「遠慮がちな申し出」
母親の預貯金について、通帳を管理していた次男の話では、口座に300万円ほどしかなく、今回の葬儀費用の100万円を引くと、200万円しか残らないということです。
「僕はこの残りの200万円だけでいいよ。実家には思い出があるだろうし、姉さんたちふたりで仲よく相続してもらって、好きにしたらいいと思う」
次男はこのようにいっています。
しかし「預貯金200万円」という金額には疑念があるのです。亡くなった母親は当時の女性としては珍しく、公務員として定年まで勤め上げています。その後も近所の商店で70歳を過ぎるまでパートをしていました。
「年金も退職金もあるんだから、お母さんの老後の心配はしなくて大丈夫よ」
と、常々子どもたちにいっていた母親ですが、果たして年金や退職金がどれくらいあったのか、正確な金額はだれも聞いていません。
ただ、母親の生活ぶりは極めて質素であり、豪華な衣料品や宝飾品にも、ぜいたくな食事にも関心がなく、旅行に出かけることもほとんどありませんでした。重篤な病気もしたことがなく、病院にかかるのは、数年に一度老眼鏡を作り変えるときと、たまに肩こりのシップをもらうときぐらいです。そのため、日々の生活は年金だけで十分足りていたと思われます。
長兄に自宅購入の資金を贈与したときは、母親はまだ公務員として勤務していましたし、それ以外に大きな金額を動かした様子もありません。介護施設の入所費用は年金ですべて賄えており、少なくとも退職金の大半は残っているのではないかと思われます。そのため、姉妹は次男の話を鵜呑みにできないでいるのです。