60~70代の4人きょうだいに発生した相続問題。公務員を勤め上げた母親には、退職金も年金もあったはずなのに、遺産は古い狭小住宅と、預貯金300万円のみ。長兄はかつて受けた贈与を理由に相続を辞退、弟は葬儀費用の残りで十分と遠慮がちですが、実際のところは…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、実際に寄せられた相談内容をもとに解説します。
老朽化、名義変更…いくつもの問題を抱える「実家」
長女と次女が相続すればいいといわれた実家ですが、立地がいいとはいえません。筆者が確認したところ、路線価では800万円程度となっていますが、前の道路幅が4m未満であり、セットバックが必要です。老朽化したいまの家を解体して新しく建てる場合は、以前の大きさの建物は建てられず、かなりの狭小住宅となってしまいます。
また、工事をするにしても、道路が狭く機材の搬入が困難となるため、建築費は割増しになる可能性が高そうです。
さらに、土地の名義は父親のままであるなど、狭く小さいこの家は、いくつもの問題点を抱えています。もし売却するにしても、現状のままでは路線価評価を大きく下回った金額でしか売れないと予想され、まさに「負動産」なのです。
200万円の真偽は「藪の中」も、対立はお勧めできない
現状の実家については、長女と次女で共有するより、売却して現金で分けることが現実的だと思われます。そのためにはまず費用をかけて名義を替えるところから始めなければなりません。建物つきのままの売却なら解体費はかかりませんが、売却の際に解体が条件となれば、小さな建物でも100万円近くかかってしまいそうです。
いずれにしろ、預金を相続する次男のほうが、手間がいらず賢い選択肢となりそうで、いわれるままの遺産分割でいいのか、疑心暗鬼になるのも無理はありません。
現実的な対策としては、まずなるべく有利な価格で売却をすることです。長女、あるいは次女が実家を相続し、一方に代償金を払う方法もあります。不動産の共有は、将来相続人が増えるなどの面倒があるため、ぜひやめておくべきでしょう。本件の場合は、やはり売却が第一選択肢となるといえます。
相続人それぞれから話を聞けば、各自それなりの言い分はあると思いますし、もちろん、次男の提案をそのまま受け入れず、預金や贈与も含めた形で遺産分割をする方法もあります。しかし、高齢となった相続人には負担が大きく、また感情的な対立が生じることが容易に予想されるため、今回のケースにおいてはお勧めできません。
※プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
株式会社夢相続代表取締役
公認不動産コンサルティングマスター
相続対策専門士
京都府立大学女子短期大学卒。PHP研究所勤務後、1987年に不動産コンサルティング会社を創業。土地活用提案、賃貸管理業務を行う中で相続対策事業を開始。2001年に相続対策の専門会社として夢相続を分社。相続実務士の創始者として1万4400件の相続相談に対処。弁護士、税理士、司法書士、不動産鑑定士など相続に関わる専門家と提携し、感情面、経済面、収益面に配慮した「オーダーメード相続」を提案、サポートしている。
著書65冊累計58万部、TV・ラジオ出演127回、新聞・雑誌掲載810回、セミナー登壇578回を数える。著書に、『図解でわかる 相続発生後でも間に合う完全節税マニュアル 改訂新版』(幻冬舎メディアコンサルティング)、『図解90分でわかる!相続実務士が解決!財産を減らさない相続対策』(クロスメディア・パブリッシング)、『図解 身内が亡くなった後の手続きがすべてわかる本 2021年版 (別冊ESSE) 』(扶桑社)など多数。
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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