病気を発症前に予防できれば、110歳まで生きられる
現代は医学の進歩によって不治の病が治るようになるなど、人間の寿命は昔に比べてかなり延びてきました。
ところが、研究によると人間は本来120歳まで生きられるように遺伝子的にはプログラムされている※といわれています。したがって、病気や事故に遭うことなく、不摂生をしないで心身に負担をかけず健康な状態を維持できれば、もともと120歳まで生きられるだけの資質を人間は持っているということです。
現代社会はストレスが多いため、もともとの資質をもっても120歳まで生きるのは難しいかもしれません。それでも心身へのダメージを本人の努力と医療の力を借りながら最小限に抑えていければ、110歳までは生きられるのではないかと、筆者は考えています。このような理由から、筆者は「110歳まで元気で長生きをしよう」と掲げています。
ところが実際には、平均寿命は延びているとはいえ、ほとんどの人が110歳まで生きることができません。
多くの人は、長生きをして亡くなる直前まで元気に過ごし、誰にも迷惑をかけずにコロリと死んでいく「ピンピンコロリ」が理想だともいいますが、実現できない人が大半です。ピンピンコロリを実現するためには、体に備わっている機能を活かし、アンチエイジング(抗加齢)をしなくてはなりません。しかし、それらを踏まえて生活できている人は、決して多くないからです。
筆者は、日々診療を通じて多くの患者さんと向き合っていますが、まず健康診断さえ受けていない人がいます。健康診断は、自分の体の状態を把握するためにとても大切なツールです。
さらに、健康診断を受けていても、血圧や血糖値、中性脂肪やコレステロール値に異常を示す数値が出ているのに危機感を持たず、生活習慣を改善する努力をしない人が少なくありません。
また、生活習慣を改善できないのであれば薬に頼るしかないのですが、その薬を飲みたくないと拒絶する人も多くいます。
異常値が出ていても自覚症状が現れていないと「まだ大丈夫」と思うのかもしれません。そういう人は、どこかに痛みが出ている、心臓がバクバクする、呼吸が苦しいなど、明らかな症状が出て日常生活に支障をきたす状態になると、慌てて「先生、何とかしてください」と医療機関に駆け込みます。ときには脳梗塞や心筋梗塞で倒れて救急搬送され、初めて自分の体がどれほど悪化していたかを知ります。
しかし、これでは遅いのです。そうなる前に予防することが、命にかかわる大きな病気のリスクを減らし、健康を維持することにつながります。
※杉本正信『ヒトは一二〇歳まで生きられる―寿命の分子生物学』筑摩書房
永野 正史
練馬桜台クリニック 院長
日本内科学会 総合内科専門医
日本腎臓学会 専門医
日本透析学会 専門医・指導医