新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。東京都の外出自粛要請に始まり、政府の緊急事態宣言が出され、多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。通勤するサラリーマンが減ったため、都心部の大型書店は休業を余儀なくされた。出版業界も撃沈かと思われたが、実はいろいろなことが起こっていた。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

緊急事態宣言下で集計以来初の2桁の伸び

2020年4~6月期の上場企業の決算が先ごろ発表された。新型コロナウイルスの緊急事態宣言下にあったこの時期(4月7日~5月25日)、外出や営業の自粛でモノやサービスの需要が一気に落ち込み、企業の生産活動も大きく減速した。

 

SMBC日興証券のまとめでは、金融を含む33業種のうち11業種で最終利益の合計が赤字となり、前年同期比減益も15業種にのぼった。

 

出版・販売はどうだろうか。

 

緊急事態宣言を受けて、紀伊国屋書店、三省堂書店はほぼ全店が休業し、丸善ジュンク堂も百貨店やショッピングモール内の店舗を閉じた。ピーク時には日販とトーハンのグループ書店あわせて800店以上が営業を自粛。大型店舗で店を開けているのは本店か独立ビルくらいで、そこでも時短が行なわれた。

 

巣ごもり需要が喚起されたにせよ、なじみの書店がやっていないのだからしかたがない。書店業界は相当の赤字を抱えたと思いきや、数字的には意外な結果が出た。

 

日販の「店頭売上前年比調査(調査対象1700店以上)」によると、コロナ発生前、本の売れ行きはすこぶる好調だった。昨年12月に100.7%と前年を超えると、今年に入り1月101.9%、2月105.0%、3月100.8%を記録。4カ月連続で前年を超えるのは2008年7月の集計開始以来で、書店業界に久しぶりに明るさが戻っていた。

 

その原動力となったのがコミックスである。今年上半期のベストセラー総合部門で1、2位を独占した『鬼滅の刃』が牽引されるかたちで、毎月前年比120%超の売り上げを記録。雑誌や書籍のマイナスをカバーした。2019年4月から2020年3月の1年間、コミックスが前年割れしたのは2回しかない。

 

そこにコロナである。まる1カ月以上、文字通り書店の灯が消えた。さすがに休業の影響は大きく、店頭売上は同93.9%と大きく落ち込んだ。いや、よくこの程度で収まったというのが関係者の本音であろう。

 

驚いたのは5月である。調査対象の3%程度(約50店)が休業を継続していたにも関わらず、全体で111.2%を記録。集計開始以来初の2桁の伸びとなった。

 

「本屋は休業対象に含まれない。理髪店やクリーニング店などと同様、社会生活を維持するうえで必要」という東京都の声明に反応し、GW明けから営業再開する店が増えたものの、この反転のエネルギーには誰もが目を見張った。

 

どっこい「本」は生きている。書店も頑張っている。“コロナは格好のカンフル剤”と言ったら言い過ぎだろうか。その後も書店は好調を維持し、コロナの第二波が到来する中、6月102.6%、7月103.8%とポテンシャルの高さを見せつけている。

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