人気作家・東野圭吾がベストセラーを電子化
対前年比をクリアーしているからといって、それは目先の小さな安心材料に過ぎない。コミックスがバカ売れしているおかげでプラスになっているわけで、本、つまり紙媒体市場の縮小にストップがかかったわけではない。
全国出版協会・出版科学研究所によれば、紙媒体(書籍・雑誌)の市場規模のピークは1996年の2兆6000億円。年々コンスタントに減り続け、2019年には1兆2360億円に半減した。最近5年間の数字を見ても、2015年の1兆5220億円が2019年には1兆2360億円と、4年間で2割近く減った。出版不況という現実は25年前から少しも変っていない。
希望の光があるとすれば電子出版市場である。出版物に占める電子出版の比率は年々大きくなり、この5年間で市場は倍になった。最近は「紙」と「電子」を合算して出版市場と呼ぶことが普通になった。
2020年上半期の出版市場は2.6%増の7945億円。紙の市場は前年同期比2.9%減の6183億円ながら、電子出版が同28.4%増の1762億円を記録し、出版市場をプラス成長とした。ちなみに、出版市場全体に占める電子出版比率は22.2%と2割を超える規模となった。
電子出版の内訳は、電子コミックスが対前年33.4%増の1511億円、電子書籍が同15.1%増の191億円、電子雑誌が同17.8%減の60億円。電子出版もコミックスがけん引していることが分かる。
また、電子出版への傾斜に新型コロナが与えた影響も少なくない。
「大型書店が休みもしくはステイホーム⇒地元の本屋に欲しい本がない⇒手軽に入手できるamazonを利用⇒この機会に電子版を体験」という流れである。
電子書籍においては作家からのアプローチもあった。
「外に出たい若者たちよ、もうしばらくご辛抱を!たまには読書でもいかがですか。新しい世界が開けるかもしれません。保証はできませんが」
外出自粛生活のストレスが蓄積した4月24日、当代随一の人気作家・東野圭吾はこんなコメント付きで、版元7社から1冊ずつ自身の小説を選んで電子書籍化した。『容疑者Xの献身』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『流星の絆』など、どれもベストセラーばかりだ。
森江都の『カラフル』、百田尚樹の『永遠の0』しかり。今まで電子化に慎重だった人気作家の中に電子化解禁の空気が醸成された。密かに新型コロナに手を合わせている編集者も少なくないはずだ。
(文中敬称略)
平尾 俊郎
フリーライター