100年続いた鎌倉の老舗「松林堂書店」はなぜ閉店したのか

新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。都心部の大型書店は休業を余儀なくされ、出版業界も撃沈かと思われたが、売り上げ好調で予想外の健闘をしている。いま出版業界で何が起きているのか。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

20年以上、営業利益が出ない状態が続いた

「コロナは全く関係ありません。店を閉めると決めてから流行が来た。延ばし延ばしにしてきましたが、もし続けていたら営業自粛の中で給料を払わねばならなかった。そういう意味ではタイミングは良かったのかもしれませんね」

 

鎌倉駅前の松林堂書店。若宮大路沿いに店があった明治時代から数えると、優に100年を超える老舗書店が、3月末日、惜しまれながら店を閉じた。

 

コロナに引導を渡されたのかと思いきや、4代目店主・小田切壽三(おだぎりじゅぞう)さん(71)は開口一番これを否定した。

 

居酒屋に姿を変えた松林堂で、昼下がりのビール(自腹)を楽しむ小田切さん。書店の常連客だった客も多いという。
居酒屋に姿を変えた松林堂で、昼下がりのビール(自腹)を楽しむ小田切さん。書店の常連客だった客も多いという。

「1995~96年ころに営業利益がマイナスに転じ、それから今日まで利益が出ないまま営業を続けてきました。本当はスパッと辞めたかったのですが、次にやることが見えてこなくて。そんなことはお構いなく、文具の見本市の紹介状は来るし、春には学参(学習参考書)、夏には日記・手帳の注文書が舞い込む。20年以上も引きずってしまったというのが実情です」

 

鎌倉の住人でなくても松林堂を知る人は多い。JR鎌倉駅東口改札を出て、小町通りと反対方向に50mほど行ったところの本屋といえば、観光客でも店構えの記憶がある。1976年にこの地に移転したときは、2階建て・売り場面積約80坪の広さで、従業員17人、レジが3つもある大規模店舗だった。

 

もちろん、ただ手をこまねいていたわけではない。赤字を補填しようと、時流に乗った事業や商品を次々と手がけた。パソコン教室、プリクラ、PHSの販売、ビニール傘、DPE、年賀状印刷、本の宅配もやってみた。

 

これらのサイドビジネスはそれなりの収益をもたらしたが、本のマイナスをカバーすることはできなかった。2009年10月、ついに書店売り場を削ってテナントを入れる。1階の一部は三井住友銀行のATMコーナーとなった。

 

「最終結論を出したのは昨年9月末です。いろいろ手を尽くしてやってみたが、3人まで減った従業員の給料の支払いさえきつくなってしまった。こんな状態では従業員は絶対幸せではないなと思ったとき、自ずと答えは出ました。辞めるにも体力がいる、ここらが潮時だと」

 

3月末日、松林堂書店は看板を下ろした。最後の最後まで、次に何をやるかは決まらないままに──。

フリーライター

1952年神奈川県生まれ。企業広報誌の編集を経て、1984年からフリー。著書に『はじまりモノ語り』(毎日新聞社)、『改築上手―「心地いい家」のヒント52―』(新潮社)、『教育で「未来」をひらけ─創価大の果敢な挑戦ドキュメント』(毎日新聞社)ほか。

著者紹介

連載「本」は死んだか?――今どきの出版事情

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