20年以上、営業利益が出ない状態が続いた
「コロナは全く関係ありません。店を閉めると決めてから流行が来た。延ばし延ばしにしてきましたが、もし続けていたら営業自粛の中で給料を払わねばならなかった。そういう意味ではタイミングは良かったのかもしれませんね」
鎌倉駅前の松林堂書店。若宮大路沿いに店があった明治時代から数えると、優に100年を超える老舗書店が、3月末日、惜しまれながら店を閉じた。
コロナに引導を渡されたのかと思いきや、4代目店主・小田切壽三(おだぎりじゅぞう)さん(71)は開口一番これを否定した。
「1995~96年ころに営業利益がマイナスに転じ、それから今日まで利益が出ないまま営業を続けてきました。本当はスパッと辞めたかったのですが、次にやることが見えてこなくて。そんなことはお構いなく、文具の見本市の紹介状は来るし、春には学参(学習参考書)、夏には日記・手帳の注文書が舞い込む。20年以上も引きずってしまったというのが実情です」
鎌倉の住人でなくても松林堂を知る人は多い。JR鎌倉駅東口改札を出て、小町通りと反対方向に50mほど行ったところの本屋といえば、観光客でも店構えの記憶がある。1976年にこの地に移転したときは、2階建て・売り場面積約80坪の広さで、従業員17人、レジが3つもある大規模店舗だった。
もちろん、ただ手をこまねいていたわけではない。赤字を補填しようと、時流に乗った事業や商品を次々と手がけた。パソコン教室、プリクラ、PHSの販売、ビニール傘、DPE、年賀状印刷、本の宅配もやってみた。
これらのサイドビジネスはそれなりの収益をもたらしたが、本のマイナスをカバーすることはできなかった。2009年10月、ついに書店売り場を削ってテナントを入れる。1階の一部は三井住友銀行のATMコーナーとなった。
「最終結論を出したのは昨年9月末です。いろいろ手を尽くしてやってみたが、3人まで減った従業員の給料の支払いさえきつくなってしまった。こんな状態では従業員は絶対幸せではないなと思ったとき、自ずと答えは出ました。辞めるにも体力がいる、ここらが潮時だと」
3月末日、松林堂書店は看板を下ろした。最後の最後まで、次に何をやるかは決まらないままに──。