新型コロナウイルスの感染拡大で日本人の働き方が大きく変わった。多くの企業でオフィスワークを在宅勤務に切り替えるなど対応に追われた。出版業界も例外ではない。出版社もリモートワークが始まり、新しい働き方が模索されている。都心部の大型書店は休業を余儀なくされ、出版業界も撃沈かと思われたが、売り上げ好調で予想外の健闘をしている。いま出版業界で何が起きているのか。新型コロナ禍の下での出版事情をレポートする。

映画ヒットで『鬼滅の刃』一色となった日本列島

すごいことになっている、『鬼滅の刃』である。

 

ノベライズが上半期総合ベストセラー1、2位を独占したとき、本連載でとりあげたかが、ほんのプロローグに過ぎなかった。あれから4ヵ月、主人公の竈門炭治郎は今、新型コロナという実在する鬼の首をも斬首せん勢いで暴れまくっている。

 

『鬼滅の刃』は電子版を含めて類型億部(発行ベース)を超えたという。
『鬼滅の刃』は電子版を含めて累計1億部(発行ベース)を超えたという。

アニメ映画の『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』が全国公開されたのが10月16日。待ちかねていたコミックスファンが閑古鳥の鳴く映画館に押し寄せ、初日から3日間の興行収入は46億円、10日間で100億円を突破した。日本で公開された映画では最速である。

 

先ごろ、11月15日まで1ヵ月間の興行成績が発表された。それによると累計観客動員は全国413館で約1750万人。同興行収入は233億円を達し、はや歴代5位に到達した。

 

4位『君の名は。』(250億円)、3位『アナと雪の女王』(255億円)を抜くのは時間の問題。2位『タイタニック』(262億円)、トップの『千と千尋の神隠し』(308億円)も射程圏内にとらえた。

 

エンタメだけではない。鬼滅が突出しているのは業種・業態を超えた経済効果である。コロナで売り上げを落としていた企業がタイアップに走り、先を争うようにコラボ商品を市場にばらまいた。

 

くら寿司(クリアファイル)、ローソン(おにぎり、パンなど)、丸美屋食品工業(カレー)、JR九州、JR東日本(臨時列車)、ベネッセコーポレーション(教材)、東京スカイツリー(ライティング)……。

 

当然、株価は反応する。配給元の東宝は公開直後に年度来高値を更新。関連グッズを手がけるジーンズメイト、エスケイジャパンなどもストップ高となり、兜町に“鬼滅関連銘柄”を出現させた。

 

巷では、福島のある温泉旅館の吹き抜けロビーが劇中の「無限城」そっくりというだけで予約が相次いでいる。同様に、見た目や名前に鬼滅との共通点があるだけで、無名の神社や山が“聖地”に昇格した。

 

もともとアニメ映画は当たれば経済効果が高い。2007年の『新世紀エヴァンゲリオン』シリーズの約1500億円が過去最高といわれているが、鬼滅は2000億円を超えるのではともっぱらの評判。

 

ここまでくると、新型コロナで極度に落ち込んだ“日本経済の救世主”という表現もあながち誇張ではなくなってくる。

 

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