世界的に超低金利時代へ突入している。そんな状況下、新型コロナウイルスの感染拡大で、事態はまさに「打つ手なし」。しかし、ここにきて注目されているのがMMT(現代貨幣理論)である。有識者から袋叩きにあい、さらにネット上でも支持派と否定派が議論を繰り広げている。MMTは救世主なのか、トンデモ理論なのか。本連載は、経済アナリストの森永康平氏の著書『MMTが日本を救う』(宝島社新書)を基に、MMTとはどんな理論なのかをわかりやすく解説していく。過去の著書には父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

「ヒト」「モノ」から「カネ」へ作用する景気悪化

コロナショックはリーマン・ショックと比較されることが多い。リーマン・ショックでは米国のリーマン・ブラザーズ社の経営破綻をきっかけに、連鎖的に世界規模の金融危機が起きた。しかし、今回のコロナショックではリーマン・ショック同様に株式市場が急落したものの、現時点では金融危機は発生していない。それでは、リーマン・ショックとコロナショックはどのような違いがあるのか。今回は企業の経営資源として挙げられる3要素に基づいて考えてみたい。

 

森永康平著『MMTが日本を救う』(宝島社新書)
森永康平著『MMTが日本を救う』(宝島社新書)

経営資源の3要素は「ヒト」「モノ」「カネ」である。リーマン・ショックでは米国のサブプライムローンの問題が引き金になり、金融機関の経営破綻などが生じ、世界的な金融危機が起きた。そこから景気が悪化して、人々の生活に悪影響が生じた。つまり、リーマン・ショックの際は「カネ」に最初に影響が出た後、「ヒト」「モノ」に波及していったかたちになる。このパターンの景気悪化はリーマン・ショック以前にも何度も起きていたため、対応策自体はシンプルに示すことが可能である。大胆な金融緩和をし、金融機関に公的資金を注入する。そして、減税や公共投資といった財政政策で需要を喚起すればよい。

 

しかし、コロナショックは非常に厄介だ。最初に外出の自粛要請、都市封鎖、入出国制限などにより、「ヒト」「モノ」に影響が出て、その後に「カネ」に影響が出ているわけだが、問題の根本にある「ヒト」「モノ」に対する対応が非常に難しい。ウイルスによる感染拡大を抑えるためには経済活動を自粛させなければいけないが、その自粛の度合いが強すぎると経済が死んでしまう。一方で、経済を重視して外出規制を弱くしすぎると、それこそウイルスで大量のヒトが死んでしまうかもしれない。ある意味では「経済苦による死者」と「ウイルスによる死者」という2つのトレード・オフの関係にあるものの間で、最適な方法を求められている

 

 繰り返しになるが、ただアクセルを踏めばいい通常の危機に比べて、今回はブレーキを踏みながらアクセルも踏まないといけないため、舵取りが非常に難しい。しかも、今回の問題の根源はウイルスであり、現時点では特効薬もワクチンもなく、専門家に言わせれば薬の開発や、ほとんどの国民が自然と免疫を持つようになるまでには早くても1年はかかるといわれている。この難しい舵取りを長期間にわたってしていかなければならない確率が高いのだ。

 

だが暗い話ばかりではない。今回は各自が自粛して消費をしていないだけで、震災や戦争によって供給能力が破壊されたわけではない。そして、少なくとも現時点では金融危機は起きていない。企業側も先行きが不透明だから投資を手控えているだけだ。本件が収束した後の回復局面では過去の経済危機とは全く違う景色が見えるだろう。それだけに、危機の最中では極力財政出動をして、問題発生前の状態をとにかく維持することが重要なのだ。

 

※使用されているデータは執筆された2020年3、4月時点のデータです。

 

森永康平

金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO

経済アナリスト

 

MMTが日本を救う

MMTが日本を救う

森永 康平

宝島社新書

新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が深刻な落ち込みを見せる中、世界各国でベーシックインカムや無制限の金融緩和など、財政政策や金融政策について大胆なものが求められ、実行されている。そんな未曾有の大混乱の最…

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