世界的に超低金利時代へ突入している。そんな状況下、新型コロナウイルスの感染拡大で、事態はまさに「打つ手なし」。しかし、ここにきて注目されているのがMMT(現代貨幣理論)である。有識者から袋叩きにあい、さらにネット上でも支持派と否定派が議論を繰り広げている。MMTは救世主なのか、トンデモ理論なのか。本連載は、経済アナリストの森永康平氏の著書『MMTが日本を救う』(宝島社新書)を基に、MMTとはどんな理論なのかをわかりやすく解説していく。過去の著書には父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

国債発行は「金利を操作する」ため

MMTの主張では「税金は財源ではない」わけだが、そもそも財源を作る方法は税金を徴収する以外にも国債を発行するという手段がある。ところが国債の発行は、MMTでは、国の資金調達手段のためではないと考えられている。それでは、何のために国債を発行するのか。もともと国が貨幣(通貨)を発行してはじめて税として回収できる。同様に、国が通貨を発行していなければ、国債を発行することもできないということをまず前提として以下、説明したいと思う。

 

これまで国と表記してきたところを「政府」と「中央銀行」に分けて、国債の発行と政府支出における役割、いわゆるオペレーションについて確認したい。政府が国債を発行して公共事業をする場合を考えよう。まず、政府が国債を発行する場合、民間銀行が準備預金を取り崩して国債を購入する。これにより、民間銀行の準備預金は減少し、政府預金が増加する。そこで、中央銀行が民間銀行から国債を買い取って、民間銀行が保有する準備預金を増やす。

 

(※写真はイメージです/PIXTA)
(※写真はイメージです/PIXTA)

 

その後、政府が政府支出(公共事業の発注)をすると、政府預金が減り、企業の預金残高が増える。すなわち、 民間銀行の準備預金が増えるというわけだ。要は政府支出に応じて中央銀行が国債を売買することで資金の動きを「調整」しているわけであって、直接国民から資金調達をしているわけではないということだ。

 

それでは、MMTにおいて、国債発行は何のためなのか。

 

それはあくまで「金利を操作する」ためである。金利の操作は銀行間で準備預金の貸し借りをする短期金融市場と呼ばれるマーケットで行われている。普段、この銀行間における市場金利が高ければ、中央銀行は買いオペ(国債を買って資金を供給する)を行って金利を下げるように調整し、逆に銀行間における金利が低ければ 売りオペ(国債を売って資金を吸収する)を行い、金利を上げるようにする。

財政政策は数字ではなく「経済目標」を見据えよ

日本では不況になった際に財政出動をして景気を浮揚させようという機運が高まると、必ず「これ以上は財政赤字を増やせない」という緊縮的な意見が出る。今回の新型コロナによる緊急経済対策で当初、公平性やスピード感を重視したいという名目で所得制限を設け、該当世帯に30万円を給付するというかたちをとろうとした。これはお金を出したくないという考えもあったと推察する。もちろん、多くの人が確定申告をしていないため、政府が国民の口座情報を持ち合わせていないため一律給付に時間がかかるということも理由にはあったと思う。それでも「30万円」の意思決定の背景には緊縮的な発想があったと考える。

 

この財務省の発想とは対照的に、MMTでは「機能的財政論( Functional finance )」という考え方が支持されている。これはアメリカの経済学者アバ・ラーナーが唱えた、「財政政策は財政収支や政府債務を軸に考えるのではなく、完全雇用や物価の安定という経済的な目標のために考えるべき」という論である。

 

民間から見れば、統合政府は通貨を創り出すことができ(発行)、回収(徴税)することもできる。更にモズラーの名刺の逸話のようにシュレッダーにかける(破棄する)こともできる。それだけの能力を持つ国、つまり統合政府は、非自発的失業者 が存在しない世界(完全雇用)の実現や、物価の安定についての責任がある。

 

だから「財政赤字が不安だから財政出動はしない」といった、財政に関する数字を基に財政政策を判断するのではなく、雇用や物価という結果に対して、財政政策の内容を決めるべき、というのがその主張である。

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MMTが日本を救う

MMTが日本を救う

森永 康平

宝島社新書

新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が深刻な落ち込みを見せる中、世界各国でベーシックインカムや無制限の金融緩和など、財政政策や金融政策について大胆なものが求められ、実行されている。そんな未曾有の大混乱の最…

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