「税金は財源ではない」というMMTの主張
「なぜ景気後退局面にもかかわらず、経験則から消費を弱らせるとわかっていた消費増税を実施したのか」「なぜ政府の財政出動は事業規模で見れば多額だが、実際の真水の部分はこんなに渋いのか」という疑問を持っていただければ、ここから先は興味深く読んでいただけるのではないか。
MMTとはModern Monetary Theory の頭文字を取って作られた略称である。日本ではMMTは「現代貨幣理論」という訳で知られている。
MMTの特徴については後述するとして、まずはMMTが注目を集めた背景を説明したい。景気後退の真っただ中で消費増税をした理由は何か。内閣府の『令和元年度 年次経済財政報告』では、今回の消費増税を「財政健全化のみならず社会保障の充実・安定化、教育無償化をはじめとする『人づくり革命』の実現に不可欠なもの」と説明している。財政健全化が消費増税の理由の1つだ。
また、新型コロナウイルス禍のいま、実態としては他国に見劣りする財政出動しかしないのも財政健全化を優先したいからだろう。要は財政健全化のために現在ある財政赤字を減らして、黒字に持っていきたい。そうしないと国家が破綻するという考え方だが、MMTは「財政黒字こそ、経済にブレーキをかける元凶だ」と考える。
そもそもEU加盟国とは違って、日本は日銀が自国通貨の「円」をお札として刷ることができる。これを「自国通貨発行権がある」という。この権利を有する先進国は、FRB(米連邦準備制度理事会)という中央銀行を持つ米国やイギリスなのだが、MMTの特徴の1つに「変動相場制を採用し、自国通貨を発行できる政府は、自国通貨建てで支出する能力に制約はなく、デフォルト(債務不履行)に陥るリスクもない」という主張がある。つまりMMTが正しいとすれば、日本はどれだけ財政支出をしても財政破綻しないのである。
何をするにしても「財源が……」と言って動きが遅くなる、あるいは結局何もしないという政府に対しても、「政府にとって、税金は財源ではない」というMMTのもう1つの主張は目新しく映る。