世界的に超低金利時代へ突入している。そんな状況下、新型コロナウイルスの感染拡大で、事態はまさに「打つ手なし」。しかし、ここにきて注目されているのがMMT(現代貨幣理論)である。有識者から袋叩きにあい、さらにネット上でも支持派と否定派が議論を繰り広げている。MMTは救世主なのか、トンデモ理論なのか。本連載は、経済アナリストの森永康平氏の著書『MMTが日本を救う』(宝島社新書)を基に、MMTとはどんな理論なのかをわかりやすく解説していく。過去の著書には父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(角川新書)がある。

ウイルスによる死か、経済悪化による死か

日本では新型コロナウイルスの感染拡大を防止するため、不要不急の外出に対する自粛要請とともに、休業の協力要請も出された。その後、非常事態宣言も出されたが、海外のロックダウンに比べれば日本の対応はゆるい。本稿はそれが正解かどうかの議論はせず、今後の日本経済についてどう対応するのが望ましいのかについて記していきたい。

 

日本政府は緊急事態宣言を出し、感染拡大を防止するために、意図的に経済活動を縮小させるという選択をした。そのため業績が急激に悪化する企業や、所得が減る個人が大量に発生した。

今回の経済危機が過去の経済危機とは違うということは、本連載の中でも何度も言及してきた。これまでの経済危機がアクセルを踏み込んで景気を浮揚させることに集中すればよかったのに対して、今回は「感染の拡大防止」と「経済活動の維持」という2つの観点から、最適と考えられるバランスを取らなければいけないという点にある。つまり、アクセルを踏みながら、もう片方の足ではブレーキを踏んで調整していかなければならない。緊急事態宣言によって経済や企業業績が想像以上に悪化したことや、徐々に新型コロナウイルスに関する情報やデータが蓄積されてきたこともあり、その後は全国で陽性者数が増えても再び緊急事態宣言を出すには至っていない。依然として、どこに最適なバランスがあるのかを探しているように思われる。

「国民の命」と「財政健全化」はどちらが優先か

一番重要なのはスピードだ。いまの日本では貯金がなく、事実上の自転車操業で家計をやりくりしている人は多い。議論が長引き、給付手続きが複雑になることで、失われる命が増えていくということを知るべきだ。 筆者は知人から既に2人が経済苦を理由に自ら命を絶ったという報告を受けた。また、筆者がたまに通っていたレストランや小料理屋も3軒が店を畳んだ。おそらく、本連載を執筆している間にも救えたはずの命が消え、いくつもの会社が倒産しているのだろう。

 

(写真はイメージです/PIXTA)
(写真はイメージです/PIXTA)

 

それではなぜ、スピードを最優先した議論ができないのか。一律給付をして「本当に困っている」人に現金がわたっても、家賃や水道光熱費の支払いに回るだけで、特に消費は刺激されないという指摘はあるが、一番救いたいところにお金が回り、生活が維持されるので目的は十分に果たされている。一律給付をすると余裕がある人にもお金がわたるという反対意見もあるが、そのことで、給付されたお金は消費に回り、それによって経済が活性化される。仮に貯金に回ったとしても、それは将来の消費に使われる可能性はある。そう考えれば、一律の現金給付で問題ない。

 

それでは、なぜすぐに一律給付という結論を導き出せなかったのか。それは「財源がない」という意見が出るからだ。ここで財源の話を持ち出すということは、事実上、「国民の命」と「財政健全化」の2点を天秤にかけていることと同じだ。

 

不評だった従来の減収世帯に30万円を給付する場合は、対象は約1300万世帯で、財源は約4兆円想定だった。1人当たり10万円の一律給付では、単純計算で約12兆円の財源が必要になる。

 

国というのは永久に続く前提であるが、人はいずれ死んでしまう。故に、人の命よりも国家を優先するということが許されていいのだろうか。この点で違和感を覚える国民が増えてきたからこそ、「消費増税が本当に必要だったのか」とか「財政健全化を進めないといけないから新型コロナウイルスの対応で 大型の財政出動はできないのか」ということを調べていく過程で、MMTに辿り着き興味を持つ方が増えてきたと考えている。

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MMTが日本を救う

MMTが日本を救う

森永 康平

宝島社新書

新型コロナウイルスが猛威を振るい、世界経済が深刻な落ち込みを見せる中、世界各国でベーシックインカムや無制限の金融緩和など、財政政策や金融政策について大胆なものが求められ、実行されている。そんな未曾有の大混乱の最…

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