景気後退真っただ中に「消費増税」という愚策
新型コロナウイルスの感染が世界的に拡大し、感染者数と死亡者数が日々増加するのに伴い、実体経済や金融市場も大きな痛手を負っている。各国の政府や中央銀行は様々な対策を打って経済への悪影響を抑えようとしているが、新型コロナウイルス問題が収束に向かう兆しは依然として見られない。
日本も例外ではなく、2020年3月以降に発表された経済指標は軒並み悪化している。しかし、その理由を全て新型コロナウイルスの影響として片づけられない。なぜなら、日本経済は新型コロナウイルスの問題が起きる前から大減速していたからだ。
20年3月、内閣府が発表した19年10〜12月期(第4四半期)の国内総生産(GDP) は、物価変動の影響を除いた実質で前期比1.8%減、年率換算で7.1%減だ。2月に発表された速報値は前期比1.6%減、年率換算で6.3%減となっていたが、その後0.8%下方修正された。5四半期ぶりのマイナス成長で、前回の増税直後(14年4〜6月期は年率7.4%減)以来の大きな下げ幅となった。
実質GDPが年率換算で7.1%減──この数字は非常にインパクトが強い。この期間、大型台風がきたり、暖冬で消費が伸び悩んだという解説も見られたが、間違いなく最大の要因は19年10月に実施された消費増税である。
アベノミクスで好調だった雇用環境にも異変が……
12年12月から発足した第二次安倍政権の経済政策はアベノミクスと呼ばれているが、アベノミクスの結果として評価が高い点の1つに日本の雇用環境が大幅に改善されたことが挙げられる。求人数と求職者数から算出される新規求人倍率や有効求人倍率を見ても、18 年頃までは右肩上がりに改善している。有効求人倍率が1.5倍を超えていたのは、高度経済成長期直後の1970年初頭まで遡らないと確認できない。
日本経済がバブルの熱狂に包まれていた90年は完全失業率が2%程度だった。しかし、バブル崩壊以降、完全失業率は上昇し続け、94年後半からは3%台、ITバブル崩壊後の2001〜03年とリーマン・ショック後の09〜10年には5%台にまで上昇した。バブル崩壊以降、日本の完全失業率は3〜5%の範囲の中で推移していたが、第二次安倍政権が発足して5年が経った 17 年からは2%台を維持している。つまり、アベノミクスで日本の雇用環境は改善され続け、ついにバブル期と同等の水準に達したのだ。
完全失業率は計算上、労働人口が減少すれば完全失業率も低下する。そのため、単純に完全失業率の低下だけで雇用環境が改善したとするのは早計という意見もあるが、労働力人口と就業者数の推移を見れば、アベノミクスがしっかりと雇用環境を改善させていったことは明らかだ。
しかし、19 年に入ったあたりから好調だった雇用環境にも陰りが出てきた。19 年平均で算出した有効求人倍率 は1.6倍だった。この数値自体は過去3番目の高さだが、09 年以来 10 年ぶりに低下した。20 年に入ると有効求人倍率は更に下落する。20 年1月の有効求人倍率は1.49倍となり、 17 年5月以来の1.5倍割れとなった。
厚生労働省が 20 年1月 から企業の求人票に昇給や賞与制度の有無などの詳細情報を記載するように 求めた結果、前月に駆け込み求人が発生し、その反動で 20 年1月の数字が悪化したというテクニカルな理由はあるものの、それだけでは説明できない落ち込みだ。雇用環境が悪化傾向にあることには違いないだろう。
産業別新規求人数を見ても、全産業で 19 年に入ってから減少傾向にあることがわかる。輸出や生産が弱い中で製造業の減少傾向が継続しているだけでなく、卸売・小売やサービス業など、非製造業においても同様の減少傾向が見てとれる。