母が急逝…子どもを心配した父が家政婦を雇う
●Aさん…父。会社創業者であり、現社長
●Bさん…長男。次期社長
●Cさん…次男。次期副社長
●D子さん…長女。きょうだいのなかで、唯一、父創業の会社と関わりがない
●Eさん…三男。次期専務
●Nさん…Aさん一家の家政婦
「びっくりしましたよ。急に態度が一変しちゃうんですから」
そう話すのは、Aさん一家で20年以上家政婦として働くN子さん。先日、主人のAさんが亡くなりましたが、そのあとに起こったきょうだい喧嘩を振り返りました。
Aさんは、50人ほどの従業員を抱える会社の社長を務めていました。その会社は、Aさんが30歳で脱サラして起こしたもので、創業から40年、休みらしい休みもとらずに働いてきた結果、大きくなった会社でした。
Aさんは脱サラする5年前に結婚。起業したときには、すでに長男と次男が生まれていました。起業し、段々と会社もまわり出したころ、Aさん40歳を前にして、長女と三男が誕生。Aさんは、忙しくも充実した毎日だったと、振り返っては何度も何度も思い出話をNさんにしてくれたといいます。
NさんがAさん一家を訪れたのは、Aさんが50代のころ。長男のBさん、次男のCさんが大学を卒業し就職、長女のD子さんが高校生、三男のEさんは中学生でした。きっかけは、Aさんの奥様の急逝。悲しみのなかでAさんが心配したのは、多感な時期であるD子さんとEさんの存在でした。
経営者として忙しく、なかなか親として子どもたちと接する機会がなかったというAさん。それでも一家が楽しく暮らせたのは、母親の存在があったからでした。その存在が急にいなくなり、どうしたものか、と考えたAさん。とにかく、いつも子どもたちのそばにいてくれる大人の存在が必要と、家政婦を雇うことに。Nさんが派遣されたのです。
Nさん、当時を振り返ります。
「男の子は、比較的すぐに打ち解けてくれたんですよ。問題はD子ちゃん。明らかに私のことを避けて、同時に、旦那様も避けるようになったんです。どうも私を再婚相手だと勘違いしていたようで。『お母さんが亡くなったのは、お父さんのせいだ!』と旦那様に怒りをぶつけていましてね」