介護施設に入居した父…長女は毎日のように顔を見せに
結局、D子さんの誤解も解けて、無視されることはなくなったというN子さん。父とD子さんの関係も修復し、Aさん一家は、徐々に母のいない暮らしに慣れていきました。
そしてAさんが還暦を迎えたころ、ほかの会社に就職していたBさんとCさんが、Aさんの会社に転職してきました。事業承継を考えて、家族で話し合って決まったとのこと。さらに数年後、大学を卒業したEさんもAさんの会社に就職。子どもたち3人が次期経営陣として、徐々に会社を任されるようになっていきました。
一方、子どもたちの中で唯一Aさんの会社に関りがなかったのが、D子さん。大学卒業後、一時、海外に留学。そこで知り合った男性と結婚していたこともあり、Aさんの会社との縁はありませんでした。
そしてAさんが70歳になるころには、事業承継も完了。しかしちょうどそのころ、Aさんは足腰を悪くして、介護施設に入ることになりました。
「旦那様が施設に入ることになり、家政婦としての私の役目はそこで終わりました。でも20年以上も家政婦をしていたので、そのあとも、Aさん一家とは家族のような関係でしたね」
Aさんが入居した施設は、手厚い介護で評判のところ。家族の負担はまったくなく、本人も家族も安心していられる施設でした。それでもD子さんは毎日のように施設に通いました。
「お兄さんや弟さんは仕事で忙しいから、なかなか顔を見せることができないでしょ。評判のいい施設だからって『家族が顔を出さないと、お父さん、かわいそうでしょ』って。365日中、360日は顔を見せていたようですよ」
そして、Aさんが施設に入ってから数年後、子どもたちを集めて、相続の話をしたときがあったといいます。
「Aさんから『遺産は基本的にBさん、Cさん、Eさんで分けるようにしたんだ』って聞きました。会社の経営なんて、いつ何があるか分からないから、経営陣の3人で、という判断らしくて。D子ちゃんも納得してのことだと聞きました」
それから3年後、Aさんは亡くなりました。